Vol.2 No.1 2009
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研究論文:産業技術の社会受容(松本ほか)−24−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)研究に際しては上記の6過程が一方向に円滑に進んだわけではなかった。特に1と3の議論を往き来する作業を何度も繰り返した。つまりモデルを考慮する中で、研究の目標を再検討し、それに応じてモデルを再構成したり元に戻したりという作業を繰り返し行った。その過程については4章で記す。2 研究の目標の明確化本研究は経済産業省の地球温暖化問題対策調査の一環として実施した。本調査の目標について、当初から明らかだったものと、研究を進める中で明らかにしていったものがあるが、以下に併せて示す。本調査は環境製品の普及予測・分析を目標とした。分析対象製品は次のとおりであった。(1)温暖化対策(CO2排出削減)に寄与する製品(2)一般消費者が購入者である製品具体的には、省エネ自動車(ハイブリッド車等)、省エネ家電 (省エネエアコン・冷蔵庫等)、高効率給湯器、高効率照明、家庭用太陽光発電システム等である。 また、誰の視点に立つ分析かという点については、(3)「政策決定者」にとって有用な普及分析とした。次のような問いに答えることが調査の目標であった。−分析対象の環境製品が今後どれくらいの早さでど こまで普及が進むか?−その環境製品に補助金を付与したときに、その普及 への影響はどの程度か?−その環境製品の省エネ性能が今後さらに向上すれ ば普及への影響はどの程度か?最初の問いを基本分析と呼び、後の2つを変化影響の分析あるいは感度分析と呼ぶ。要件として、(4)基本分析、感度分析の実施を可能にするまた、(5)分析を容易に行えるよう「分析ツール」を作成する最後に普及分析の期間について、(6)「数十年の長期」を対象とした分析とした。最初の2点(対象製品)は調査開始当初から決定していたが、後の4点は自明ではなかった。後の4点を明確化することが、分析に適するモデルを選択・決定するのに必要であることが研究を進める中で明らかになってきた。4節で再度触れる。3 既存モデルの調査製品の普及分析のモデルは大きく2つに分類できる。1つはロジスティック曲線モデル(Bassモデル)であり、もう1つは消費者選好モデルである。以下で概要と特性を示す。また技術・生産革新のモデルとして良く取り上げられるのが、新技術の長期の価格低下の推移を記述する学習曲線モデルである。併せて記す。3.1 Bassモデル[4]-[6]製品の普及曲線はS字型の形状を示すことが多い。図1に過去の代表的な製品の普及曲線を示す。Frank Bassは、元々物理学や生物学で用いられてきたロジスティック曲線モデルに購買行動の解釈を与えて普及モデルとして定式化した[4]。数学的な定式化は次のとおりである。Xtをt期の新規購入者数、Nを最終的な普及数(率)、ntをt期の普及率(Nに対する割合)とすると、Xt=( p+r・nt)・(1−nt)・ N (1)で定式化される。pが革新係数、rが模倣係数と呼ばれる。図1ではN・ntが縦軸、Xt が曲線の傾きに相当する。式(1)は −=( p+r・nt)・(1−nt) (2)とも表せる。境界条件をnt=0=0 とすると、nt は次式である[2][6]。 nt= (3)式(1)、 (2)、 (3)より、3つのパラメータ p, r, N が決定されれば、Xt , nt の時間推移が決まる。環境製品の普及分析への応用では、1980年代に欧州のIIASA(国際応用システム研究所)が新エネルギー技術の普及予測に用いた。Bassモデルは普及の長期の時間推移を近似することができる一方、変化要因があったときの影響分析が困難である。例えば補助金政策によって製品価格が変化したときの普及への影響の分析や消費者選好の図1 過去の主な製品の普及推移曲線縦軸は世帯普及率。出典:携帯電話以外は内閣府経済社会総合研究所「家計消費の動向−消費動向調査年報」、携帯電話は総務省「通信利用同行調査報告書世帯編」。洗濯機エアコン乗用車カラーTVVTRパソコン携帯電話02040608010019551960196519701975198019851990199520002005dntdt1−e−(p+r)t1+r/p・e−(p+r)t
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