Vol.2 No.1 2009
25/94
研究論文:食品・環境中の有害成分分析のための有機標準物質の拡充(井原ほか)−22−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)の発光量が結びつけられ、目的成分の物質量が求められます。ポイントは分子種に依存しない原子化効率ですが、ガスクロマトグラフ法とヘリウムプラズマの発光分光分析法との組み合わせにおいて、現状では5 %程度の不確かさ(95 %信頼区間)であり、実用化には更なる改良が必要と考えています。議論9 溶媒の重水素化の理由質問・コメント(小野 晃)4.2節に重水素化溶媒が用いられたことが記述されています。定量NMR法で溶媒を重水素化する理由をご説明ください。通常の水素の溶媒を使った場合には、定量NMR法はほとんど使えないと考えてよいのでしょうか。 回答(井原 俊英)本研究のように、測定核種として1H(プロトン)を利用する場合、通常の水素である1Hを含む溶媒を用いると、溶媒由来の1H信号が定量したい化合物の1H信号と比較して非常に強くなり、装置のダイナミックレンジの関係で定量したい化合物の信号を精密に測定できないという問題があります。そこで、定量NMR法に限らず1H NMR測定では、通常、重水素化によって1Hを無くした溶媒を用いることで、この問題を解決しています。一方、4.3節で例示したエタノールの定量分析に関する国際比較における測定試料の溶媒は、重水(D2O)ではなくほぼ軽水(H2O)なので、通常の測定条件設定では上述した問題が生じます。このような場合、溶媒(水)由来の水素原子共鳴位置に比較的強度の低いラジオ波を照射してこの信号を飽和させた直後に、通常と同様なパルス測定を行うプレサチュレーション法と呼ばれる技術を適用することで、妨害ピークを消去することができます。ただし、ここで利用したラジオ波のピーク選択性が低いため、照射位置と定量したい試料由来の信号の共鳴位置が近い場合には定量値の正確性が失われます。それ以外の場合でも、正確な定量値を得るためには照射強度や時間などを適切に設定することが必要なため、可能な場合は重水素化溶媒の使用が簡便かつ安全です。なお、NMR測定では磁場の安定性を得るために、一般的に重水素化溶媒からの信号周波数が一定になるように磁場強度の調整を随時行っています(重水素ロック)。定量NMR法を含め、比較的長時間にわたる測定が必要で、かつ分解能の高いスペクトルを得るためには重水素ロックが不可欠であり、このため試料溶液が重水素化されていない場合は、重水素化溶媒の添加が必要です。
元のページ