Vol.2 No.1 2009
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研究論文:食品・環境中の有害成分分析のための有機標準物質の拡充(井原ほか)−21−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)研究のシナリオと要素技術の統合を示す図を追加してください。回答(井原 俊英)ユニバーサルな校正技術構築のための要素技術の統合プロセスとして図6を作成しました。議論4 基準物質の選択質問・コメント(小野 晃)表2の測定において、定量NMR法の基準物質に米国NISTの国家標準物質である安息香酸を用いていますが、産総研で既に多数整備した高純度の有機化合物の国家標準物質を使わなかった理由は何ですか。回答(井原 俊英)基準物質に求める要件は、5.2節で説明した通りですが、使用した米国NISTの国家標準物質である安息香酸(NIST SRM 350a)は、本文中に示した要件①~③に優れるという点で、現有する国家標準物質の中では定量NMR法に最適であると考えました。要件①に関しては、産総研の国家標準物質であるフタル酸水素カリウム(NMIJ CRM 3001-a)や1,4-ジクロロベンゼン(NMIJ CRM 4039-a)も匹敵する品質ですが、フタル酸水素カリウムに関しては有機溶媒に溶解しにくいため要件②の点で不十分と判断し、一方、フタル酸ジエチルに関しては昇華性が高いため要件③の点で不十分と判断しました。現在、定量NMR法のために開発された国家標準物質はないので、要件①~③に加えて要件④にも優れる産総研の国家標準物質の開発を進めています。議論5 最終的な基準物質の姿質問・コメント(小野 晃)定量NMR法を活用した場合、原理的には、最終的な基準物質となる国家標準物質は1種類でよいと述べられていますが、将来新しいトレーサビリティ体系が完成したときに、現実に国家標準物質は何種類くらい必要と予想していますか。そのとき具体的にどのような有機化合物が国家標準物質の有力候補と考えていますか。回答(井原 俊英)本研究では、開発に時間や経費を要する国家標準物質の種類を最小限にすることを優先したことから、仲介物質を用いた多段階の校正手法を提案し、これまで測定した有機化合物ではすべて安息香酸を基準物質としています。したがって、1H NMR測定が可能な有機化合物に対しては、1種類の国家標準物質からトレーサビリティ体系を構築することは実際に可能であると考えています。一方、このようなトレーサビリティ体系は、多段階の校正によって不確かさや手間が増えるというデメリットがあるので、高精度あるいは迅速分析のニーズが高いユーザが多ければ、極性や化学シフトの異なる何種類かの国家標準物質を用意し、可能な限り一段階の校正とする方向性も考えられます。なお、水素原子を持たない有機化合物にも対応すべく、リンやふっ素など他の核種の定量NMR法の開発とそれにあわせた基準物質となる国家標準物質が必要と考えています。議論6 仲介物質の調製と使用方法質問・コメント(小野 晃)仲介物質の使い方について質問します。将来新しい効率的なトレーサビリティ体系が完成したときに、仲介物質は産総研が整備・保管して適宜頒布するものでしょうか。あるいは仲介物質は、実用標準物質を調製する機関がそれぞれ調製するときに合わせて自分で適宜作成し、調製が終了したら廃棄するといったやり方を想定していますか。回答(井原 俊英)本論文では、仲介物質について、実用標準物質を開発・供給する機関(標準物質生産者)が目的に応じて用意するものと位置付けています。この際、適切に評価を行うことで、試験の度に調製するのではなく、標準物質生産者自らの責任で一定期間保管することも可能と思われます。また、7章で述べたように、定量NMR法が有機化合物の定量分析法として様々な機関で活用されるようになれば、用時調製的な仲介物質の運用にとどまらず、使いやすい仲介物質を標準物質として、産総研もしくは標準物質生産者が頒布することも考えられます。議論7 定量NMR法と凝固点降下法の比較質問・コメント(小野 晃)表2の測定値に関して質問します。凝固点降下法では、純度の測定値が不確かさの上限で100 %を超えるものは少ないのに対して、定量NMR法では多くのもので、不確かさの上限が100 %を超えるという合理的でない結果になっています。凝固点降下法は、純物質に対してその不純物の量を直接測定する方法なので、100 %を超えることが少ないと思いますが、一方、定量NMR法では、純物質をいったん1000 mg/L 程度の濃度に薄めたのち、主成分の測定を行っています。これが100 %を超えやすい原因ではないでしょうか。定量NMR法は溶媒中の成分の測定に適しており、純物質の純度測定にはむしろ向かない方法といえませんか。その意味では、図6の破線で囲った製品化研究では、定量NMR法は最も期待されるところと思いますが、著者はどのように考えますか。回答(井原 俊英)図5に示した定量NMR法の不確かさの要因では、調製の不確かさと測定の不確かさを分離して表しておりませんが、調製の不確かさは相対的に小さいものではありません。したがって、純度測定に適用する場合に、直接測定できる凝固点降下法と比べて溶液調製を伴う定量NMR法が不確かさの点で不利になることは否定できず、結果として不確かさの上限で100 %を超える純度が得られることがあるのはご指摘の通りです(ただし、純度値に偏りがあるわけではないと考えています)。一方、溶液の成分濃度測定には凝固点降下法は適用できないので、本来、定量NMR法の特徴が生かせる応用例であることもご指摘の通りですが、多くの有機溶媒が水素を含むので、水素原子を対象とするNMRにおいては、この影響の抑制が大きな課題となります。定量NMR装置の開発を含めた製品化研究において、溶媒中の水素原子の問題を解決し、溶液の成分濃度測定を実用レベルで可能とすることが、定量NMR法の定着の鍵を握っているかもしれないと考えています。議論8 ユニバーサルな校正技術の他の可能性質問・コメント(小野 晃)7章「将来の展開」の中で、定量NMR法以外にもユニバーサルな校正技術がありうるといった示唆をしていますが、現時点で可能性がありそうな校正技術には何があると考えますか。回答(井原 俊英)4.1節でユニバーサルな校正技術には、原理的に一次標準比率法(物質量の基準となる別の化学物質を用い、それとの比較において目的の化学物質の物質量を測れる方法)の資格を有する分析法が必要であると述べています。分析技術として確立しているわけではありませんが、筆者らが検討しているその種の分析法の1つにクロマトグラフ法と発光分光分析法を組み合わせた手法があります。この分析法は、目的成分を含む試料をクロマトグラフ法により時間的・空間的に分離した後、化学物質ごとに高温のプラズマ中に導入、炭素原子、水素原子、酸素原子などに原子化し、例えば分光された炭素原子の発光量を測定するというものです。あらかじめ試料中に、一定量の炭素を含む基準物質を加えておくことで、基準物質自体も原子化されるので、物質量と炭素

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