Vol.2 No.1 2009
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研究論文:食品・環境中の有害成分分析のための有機標準物質の拡充(井原ほか)−20−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)齋藤 剛(さいとう たけし)2000年工業技術院物質工学工業技術研究所入所。有機化合物のスペクトルデータベース(SDBS)の高度化研究に従事し、現在はSDBSを統括している。入所以来、NMRを利用した研究を行っており、NEDO委託事業「ナノ計測基盤」では、NMRを利用した液中粒径計測の研究に従事した。現在は、NMRを用いた定量技術の高精度化研究と、この技術の汎用化に向けた課題に取り組んでおり、本論文では定量NMR法に関わる基礎的な技術構築を行った。杉本 直樹(すぎもと なおき)1997年金沢大学大学院自然科学研究科博士課程修了。1997年国立衛生試験所(現、国立医薬品食品衛生研究所)入所、食品添加物等の規格設定に従事。2005年~2006年FDA(米国食品医薬品局)、CFSAN(食品安全応用栄養センター)にて、国際基準化を目指した食品添加物の複合分析法の開発研究に従事。2008年より、国立医薬品食品衛生研究所環境衛生化学部第三室長として、水道水質に関わる化学物質の規格基準の設定、分析法の開発に従事。本論文では定量NMR法の応用技術を担当、本技術を社会で広く活用するために必要な自動化ツールを提案した。査読者との議論 議論1 全体的評価コメント(小野 晃)食品や環境中に含まれる有害な有機化合物を正確に分析する技術は、現在多様なニーズに追いつけず、困難な状況にあると思います。本研究で開発した定量NMR法とそれに基づく新しい効率的なトレーサビリティ体系はこの困難を打ち破るもので、大きな革新につながる可能性があると期待されます。当初、従来からある定性を目的としたNMR装置を使って定量分析を始めたと思いますが、必要な要素技術に立ち戻って定量NMR法のコア技術を完成させた点で、本研究は優れた第2種基礎研究と思います。コメント(一條 久夫)校正技術主体の効率的なトレーサビリティ体系への転換という大目標へ向け、シナリオを描きつつ着実に研究開発を続けられていることが、分かり易く記述されていると思います。議論2 記述内容の絞り込み質問・コメント(小野 晃)定量NMR法は新しいトレーサビリティ体系を提唱するものであり、これだけでも十分な成果ですので、これを分かりやすく記述することに集中したほうが良いと思われます。凝固点降下法は、純物質の純度測定に使われるものとして簡単に記述してはどうでしょうか。質問・コメント(一條 久夫)本論文は、目標、社会とのつながり、要素等が明確に記されていると思います。「定量NMR法は適切(多くの物質に適用可能で市場の要求する不確かさの範囲)」、 「凝固点降下法は不適(結晶化の問題)」と判断されたわけですが、判断の理由(結晶化の難しさや対象物質が限られる等)について、本研究を通して得られた知見をもとに若干説明を加えられた方が理解し易いように感じます。回答(井原 俊英)凝固点降下法と対比した論理展開を変更し、定量NMR法についての技術構築に絞り込む内容に書き改めました。なお、凝固点降下法については既に確立した技術として位置づけ、定量NMR法の妥当性検証のためとして記述しました。議論3 シナリオと統合の明示質問・コメント(小野 晃)分野外の読者にも分かりやすいように、第2種基礎研究としての本ISO Guide 35: Reference materials - General and statistical principles for certification, p.2, International Organization for Standardization, Geneva, Switzerland (2006).日本分析化学会編:分離分析化学事典, p.350, 朝倉書店 (2001).G. Maniara, K. Rajamoorthi, S. Rajan and G. W. Stockton: Method performance and validation for quantitative analysis by 1H and 31P NMR spectroscopy. Applications to analytical standards and agricultural chemicals, Anal. Chem., 70, 4921-4928 (1998).齋藤 剛, 井原俊英, 佐藤浩志, J. Harald, 衣笠晋一: 1H核磁気共鳴法による水溶液中のエタノールの定量に関する国際比較, 分析化学, 52, 1029-1036 (2003).T. Saito, S. Nakaie, M. Kinoshita, T. Ihara, S. Kinugasa, A. Nomura and T. Maeda: Practical guide for accurate quantitative NMR analysis, Metrologia, 41, 213-218 (2004).T. Saito, T. Ihara, M. Koike, S. Kinugasa, Y. Fujimine, K. Nose and T. Hirai: A new traceability scheme for the development of international system-traceable persistent organic pollutant reference materials by quantitative nuclear magnetic resonance, Accred. Qual. Assur., in press.杉本直樹, 末松孝子, 内海博明, 齋藤 剛, 井原俊英, 小島 豊, 伊藤澄夫, 佐藤恭子, 山崎 壮, 棚元憲一: qNMRを用いた天然色素カルミン酸の絶対定量, 日本生薬学会第55回年会講演要旨集, 298 (2008).[1][2][3][4][5][6][7]執筆者略歴井原 俊英(いはら としひで)1994年東京都立大学大学院工学研究科博士課程修了。1996年工業技術院物質工学工業技術研究所入所、揮発性有機化合物等の有機標準物質開発に従事。2002年~2003年NIST(米国標準技術研究所)にて、健康食品関連標準物質開発に従事。2005年~2006年BIPM(国際度量衡局)にて、有機化合物の純度評価技術開発に従事。2006年より、産業技術総合研究所計測標準研究部門標準物質システム科(現、計量標準システム科)に所属し、環境、食品、臨床検査分野における新たな標準供給システムを研究、現在に至る。本論文では、化学計量における新たなトレーサビリティ体系を構想、具体的なアプローチ手法を設計した。参考文献用語12:用語13:除することができる(目的成分とその安定同位体成分の強度比が維持される)とされる。なお、目的成分の基準となる物質で安定同位体成分の濃度をあらかじめ得ておく必要がある。物質量諮問委員会:メートル条約に加盟する機関からなる国際度量衡委員会傘下の諮問委員会の1つで、化学計量に関する問題を審議する委員会として1993年に設置された。国際比較:国家計量標準機関の校正測定能力および標準物質に付与する値の同等性の程度を確認するための試験所間比較。通常は研究的な国際比較(パイロットスタディ)から始められ、ある程度の技術的基盤が構築された後に、正式な国際比較である基幹比較に移行する。
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