Vol.2 No.1 2009
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研究論文:食品・環境中の有害成分分析のための有機標準物質の拡充(井原ほか)−16−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)化学物質である必要がないという点である。このことから、定量NMR法は1Hの基準となる化学物質が最低限1種類は必要であるが、水素を含む有機化合物であれば基本的に測定可能であることから、広範囲な適用可能性が期待できる。そこで筆者らは、定量NMR法に特化した要素技術を開発し、それらを統合することで、実用標準物質の校正に広く用いることができると考えた。5 定量NMR法の実現のための要素技術とその統合5.1 コアとなる要素技術定量NMR法をユニバーサルな実用標準物質の校正技術として実現するために、筆者らが行った要素技術の開発とそれらの統合プロセスを図6に示す。定性分析に目的を特化して分析技術を開発する場合と、定量分析に特化する場合では、NMRに求める要件に大きな差がある。定量NMR法では、測定の迅速性や信号のS/N向上よりも、分析しようとする原子の数に信号強度が正確に比例することを最優先に考え、コアとなる要素技術を選択し、条件設定を見直した。一般にNMRの信号は、スピン-格子緩和時間(T1)と呼ばれる寿命で緩和する(すなわち励起状態から基底状態に戻る)が、T1は水素原子の周囲の環境(結合状態など)によって異なる。定性分析を目的としたNMRの場合は、信号のS/Nを向上させるために高い頻度でマイクロ波パルスを照射し、信号を積算する。しかし、そのような場合にはしばしば遅延時間がT1よりも短くなり、必ずしも全ての水素原子が基底状態に戻らないうちに再励起することになる。その結果、測定対象物質と基準物質のそれぞれ着目した水素原子のT1に差がある場合、それぞれの原子の数に正確に比例したピーク面積が得られない。そこで、遅延時間とピーク面積の関係を測定したところ、測定対象の水素原子のT1の6倍以上の遅延時間をとることで、NMR信号の99.9 %以上が緩和し、安定したピーク面積比が得られることを実験的に確認した[5]。測定対象の水素原子のうち最も長いT1よりも十分に長い遅延時間を取ることで、これまでよりも数倍の測定時間が必要となったものの、水素原子のT1によらないピーク面積比が得られた。また、通常、NMRでは信号のS/Nを向上させるために、オーディオフィルタを用いて測定の帯域幅を狭めることが行われる。ところが、フィルタは帯域幅の全域でフラットな感度特性を示すわけではなく、特にフィルタ帯域の端で感度低下が著しく、化学シフトによっては数%以上の感度低下を生じる。したがって、測定対象物質と基準物質の着目した水素原子の化学シフトの差が大きいほど、正しいピーク面積比が得られにくい。そこで、化学シフトによらないフラットな感度を得るために、オーディオフィルタに関しては、これまでの定性的なNMRでは10 ppm~20 ppmであったスペクトルの観測幅を100 ppm程度に拡げるとともに、その60 %~70 %がカバーされるフィルタを設定した。帯域幅の広いフィルタを設定することで、1H NMR信号の存在する範囲(通常、0 ppm~10 ppm)についてはフィルタ特性が十分に平坦な部分を使え、期待したようにフラットな感度が得られた。このようなフィルターの設定は一方で、大量のデータを取り込まなければならないので、通常のNMRでは考えられない設定ではあるが、測定値の正確さを最優先してこれまでの常識にとらわれないアプローチにより問題点を解決した[5]。なお、上記2つの要素技術以外に、位相補正の仕方、ベースラインの引き方や積分範囲の設定などに注意することが測定値の再現性を向上する上で重要であった。5.2 仲介物質の活用定量NMR法による測定では1Hの基準物質を必要とするが、それは測定対象と同じ化学物質である必要はない。基準物質(ここでは純物質に限定)に求められる要件は、要素技術の開発と統合成果の活用成果の活用校正頒布校正校正校正分析値の同等性確認将来の課題(製品化研究) ■ 積分範囲の安定化 ■ ベースライン設定の改良 ■ 位相補正方法の改良 ■ オーディオフィルターの最適化 ■ 遅延時間の最適化コアとなる要素技術仲介物質分析装置定量NMR定量NMR分析技術(定性)NMR分析技術における分析検査試験機関・研究機関実用標準物質凝固点降下法による純度測定技術国家標準物質図6 ユニバーサルな校正技術構築のための要素技術の開発とそれらの統合プロセス

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