Vol.2 No.1 2009
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研究論文:食品・環境中の有害成分分析のための有機標準物質の拡充(井原ほか)−15−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)の水素原子Dの1分子当たりの数は同じ(どちらも6)なので、ピークIの面積とピークDの面積比がそれぞれの分子数の比になる。ゆえに、[ピークIの面積]/[基準物質の分子数]=[ピークDの面積]/[測定対象物質の分子数]、という関係が成り立ち、基準物質の分子数が既知であるので、測定対象物質の分子数が得られ、測定対象物質の質量(秤量値)と分子量から測定対象物質の純度が求まる[3]。したがって、定量NMR法は、原理的に測定試料中にある水素原子の数、言いかえれば物質量にトレーサブルな測定値を得ることが可能な一次標準比率法である。図3の例は、測定対象物質および基準物質それぞれを純物質とし、それらを質量比で混合後に重水素化溶媒に溶解させて定量NMR法による測定を行い、測定対象物質の純度を求めたものであるが、実用標準物質は溶液状態で供給されるものも少なくない。ある程度の濃度(0.1 %程度)であれば、適切な重水素化溶媒に実用標準物質を溶解することによって定量NMR法が適用でき、得られた測定対象物質の分子数、加えた試料溶液の質量および測定対象物質の分子量から、実用標準物質の濃度を求めることも可能である。4.3 定量NMR法の可能性定量NMR法の一次標準比率法としての可能性については、ドイツの連邦材料・試験研究所(BAM)が早くから着目しており、当所を含め物質量諮問委員会用語12のメンバーである各国の計量標準機関が興味を示していた。そこで、2001年にイギリスの国立化学研究所(LGC)とBAMが幹事機関となり、主要国から10機関が参加して水溶液中のエタノールの定量分析に関する国際比較用語13が行われた際に、ガスクロマトグラフ法(GC)など従来からの測定とあわせて定量NMR法による測定も同じ試料について実施された[4]。試料は幹事機関のLGCにおいて精密な質量測定により調製され、エタノールの濃度は1.072 mg/g ± 0.006 mg/gであったが、この調製値は伏せられた形で参加機関に試料が配布された。また、定量NMR法による測定を行うことを表明した参加機関にはBAMから濃度が既知の基準物質(3-トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム-d4)の重水溶液が別途配布された。測定結果は幹事機関に個別に報告され、図4はそれらをまとめたものである。各データ点が報告値であり、それに付随するエラーバーは、それぞれの参加機関が見積もった測定の不確かさ(95 %信頼区間)である。定量NMR法の結果に関しては、ほとんどの機関で不確かさが%レベルであり、調製値から大きく外れる機関も散見されるなど、GCなど従来からの分析技術と比べて正確さは劣るものであった。したがって、この国際比較の結果からは、定量NMR法は技術的に未だ十分に確立されたものとは判断されず、その後、国際的には特に注目されることなく今日に至っている。一方、図4を見ても分かるように、当所の報告した測定結果は調製値と良く一致し、不確かさも他の参加機関の定量NMR法と比べて十分に小さかったことから、我々は定量NMR法に対して異なる見解を持つに至った。国際比較の際に当所が幹事機関に報告した定量NMR法の不確かさが図5である。不確かさの要因ごとにその大きさを評価したものであるが、最も大きい要因は幹事機関から配布された1Hの基準物質の濃度の不確かさである。当所における定量NMR法の測定の不確かさはそれよりも小さいことから、より正確な基準物質を当所が自ら用意すれば測定の不確かさをさらに小さくできる見込みがあることが明瞭になった。ここで注目すべき点は、国際比較に用いられたGCなど従来からの分析技術は同じ種類の化学物質の間でのみ濃度を比較する校正技術であるために、被測定物質と同じ種類の基準物質が必要であるのに対して、定量NMR法は異なる種類の化学物質の間で物質量を比較できる校正技術であるために、基準物質は測定対象物質と同じ種類の1.031.051.071.091.191.211.111.131.151.17mg g-12(NMR)6(GC)9(GC)6(NMR)4(NMR)8(GC)7(GC)1(GC)2(GC)5(GC)3(NMR)8(NMR)10(NMR)7(NMR)5(NMR)1(Titration)0.00070.150.00040.100.0500.0014相対標準不確かさ (%)【不確かさの要因】分子量(基準物質)分子量(エタノール)1Hの存在比(基準物質)1Hの存在比 (エタノール)基準物質濃度調製及び測定0.0003図4 水溶液中のエタノールの定量分析に関する国際比較の結果図中の実線が調製値、点線が調製値の不確かさ、当所の結果はNo. 6参加機関(順不同):BAM(独)、 KRISS(韓)、 LGC(英)、 LNE(仏)、 NIST(米)、 NMi(蘭)、 NMIJ(日)、 NRC(加)、 NRCCRM(中) 、VNIM(露)図5 水溶液中のエタノールの定量分析に関する国際比較における1H NMRの不確かさ
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