Vol.2 No.1 2009
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研究論文:食品・環境中の有害成分分析のための有機標準物質の拡充(井原ほか)−14−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)法用語7、重量分析法用語8および凝固点降下法用語9がある。これらの分析法は物質量の絶対値が得られるので国家標準物質の値付けには適しているが、一般に分析の迅速性に欠け、また分析できる物質の種類が限られるなど、本研究で目標とするユニバーサルな校正技術としては適格とは言えない。一方、一次標準比率法は、「物質量の基準となる別の化学物質を用い、それとの比較において目的の化学物質の物質量を測れる方法」であり、すでに実用化されているものに滴定法用語10及び同位体希釈質量分析法用語11がある。また、分析技術として十分に確立されていないものの、原理的に一次標準比率法の資格を有する分析法として、定量核磁気共鳴法(定量NMR法)がある。以上の測定法について、多様な実用標準物質の校正という視点で見直した場合、①市場の要求する不確かさを満足しつつ迅速性や簡便性などに優れること、②様々な化学物質(本研究では有機化合物全般)に適用可能な高い汎用性を有すること、などが要件となる。そこで、現在十分に確立されていないものの、①、②の要件をクリアするという課題に関しては、定量NMR法が最も可能性が高いと考え、有機化合物における実用標準物質のユニバーサルな校正技術として確立を図ることとした。4.2 定量NMR法の原理核磁気共鳴(NMR)法は化学物質の分子構造を決定するための代表的な分析法の1つであり、タンパク質の解析等、分子構造の決定に多くの成果を上げている。NMRで得られる化学シフト(原子の結合状態や環境に依存する共鳴ピークの位置)やスピン結合(化学結合の数、結合次数及び結合角に依存するピークの分裂)の情報は、その化学種や近傍の環境を示唆する。これらに加え、化学シフトの異なる各ピークの面積比は、一般にそのピークに寄与する原子の数の比を示すので、特に水素原子の核磁気共鳴に着目した1H NMRでは図2に示すように、有機化合物の定性分析に重要な各炭素に結合する水素原子の数の比を簡単に確認することができる。従来、このNMRの特性はもっぱら分子構造の決定に使われており、水素原子の数を整数比で確認するに留まっている。しかし、発想を逆転して、もし有機化合物の分子構造が分かった状況であれば、各共鳴周波数のピークに寄与する水素原子の数が明確なため、化学物質の定量分析に応用することが可能であると考えられる。すなわち、測定対象物質が含まれている試料溶液中に別の基準となる化学物質を加えて1H NMR測定を行うと、図3に示すように2種類の化学物質のスペクトルが混ざって得られる。このとき、加える化学物質(以下、基準物質という)の質量(秤量値)、分子量、純度が既知であれば、図中のピークIの面積に相当する物質量(分子数)が分かるので、これを基準として測定対象物質の分子数を求めることができる。具体的には、例えば基準物質の水素原子Iと測定対象物質測定対象物質基準物質化学シフト δ (ppm)9876543210-1ABCDEI0.050.090.270.050.390.057.367.257.252.931.471.54CBAHBHCHAHCOHHA:HB:HC=2:1:21H2H化学シフト δ (ppm)7.07.5 8.0 8.5 2HOHA電量分析法重量分析法凝固点降下法滴定法同位体希釈質量分析法(定量核磁気共鳴法)測定法の概要安定同位体を用いた質量分析主な対象物質金属元素無機塩高純度有機化合物酸、塩基、元素微量金属、微量有機化合物有機化合物基準となる物質不要不要不要滴定原理に即した基準が必要対象物質毎に必要1Hの基準となるものが必要不確かさ(1 %未満)○○○○○△(未知数)迅速性××××○○汎用性×××××○分析法一次標準直接法一次標準比率法特定の物質を電気分解させたときの電気量を測定溶液中での特定の物質の沈殿量を測定融点付近における融解量と温度の関係を測定化学反応を用いて特定の物質を測定化学シフトの異なる1Hピークの面積比を測定図2 1H NMRによる化学物質の定性分析図3 1H NMRによる化学物質の定量分析表1 一次標準測定法の分類とその特徴

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