Vol.2 No.1 2009
16/94
研究論文:食品・環境中の有害成分分析のための有機標準物質の拡充(井原ほか)−13−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)用が強く推奨されるため、規制対象物質の増加にあわせてそれら標準物質の整備を急ぐべき状況にある。2 現行の標準物質の問題標準物質の計量学的に妥当な手順による値付けは、国際単位系の定義(この場合、物質量)へのトレーサビリティ用語4を確保した測定法によって実現される。この作業は、通常、各国の国家計量標準機関用語5によって行われており、生産される標準物質は国家標準物質と呼ばれる。国家標準物質は一般に、最高の正確さを持ったものであるので、労力、時間、経費をかけて周到に整備される。分析を実際に行う検査・試験機関に国家標準物質そのものを直接供給することは、通常、量的にも経済的にも合理的ではないので、国家標準物質で二次標準物質を校正し、さらに二次標準物質で実用標準物質を校正するといったピラミッド型構造を利用して上位標準から下位標準を多数生産することで、ねずみ算的に標準物質の数(量)を増やし、正しい「ものさし」が多くの使用者に行き渡るトレーサビリティ体系が構築されている。このような概念は、例えば、天秤の校正に用いる分銅のトレーサビリティ体系と基本的には同じであり、標準物質に特有のものではないが、現在の標準物質のトレーサビリティ体系には分銅とは異なる次のような特徴がある。図1に我が国で行われている河川水・水道水の水質試験等に用いられる揮発性有機化合物分析用の標準物質のトレーサビリティ体系を示した。国家標準物質は揮発性有機化合物23種類を成分に含む溶液の形で製造され、国際単位系へのトレーサビリティは凝固点降下法により値付けされた成分毎の純物質を介して確保される。二次標準物質および実用標準物質も国家標準物質と同様に揮発性有機化合物23種類を成分に含む溶液であるが、上位標準から下位標準への校正は成分毎に行われるため、トレーサビリティ体系は一対一対応になっており、標準物質の種類に関してはピラミッド型構造をしていない。すなわち、ある成分の国家標準物質で同じ成分の二次標準物質を校正し、さらにこの二次標準物質で同じ成分の実用標準物質を校正する。同じ化学物質同士の一対一の校正であるため、ガスクロマトグラフ法のような市販機器による分析技術を用いて実用標準物質までの校正を高い信頼性で行うことができ、このメリットにより、現在、世界中でこのようなトレーサビリティ体系が運用されている。一方、このトレーサビリティ体系では、分析を行う化学物質それぞれに対応して多種類の国家標準物質を揃えなくてはならないため、特に多大な時間と労力、経費を要する国家標準物質の開発がトレーサビリティ体系の整備のボトルネックになっている。したがって、先に述べたポジティブリスト制度のように化学物質の規制強化によって急増する標準物質のニーズに機動的に対応するには、新たな発想に基づく効率的なトレーサビリティ体系の構築が必要である。3 研究の目標-効率的なトレーサビリティ体系の構築現在の標準物質のトレーサビリティ体系は、国家標準物質をよりどころとし、同じ化学物質どうしの校正の連鎖によって成り立っているために、多種類の化学物質の分析に標準物質の整備が迅速に対応できない問題があることを前章で述べた。この問題は、多種類の実用標準物質の校正を最小限の種類の上位標準で行うことができれば解決するが、現行の同じ化学物質どうしの校正を前提とした校正技術では対応できず、新たな校正技術の開発と導入が必要である。すなわち、分子構造によらずに化学物質の量を測れるようなユニバーサルな校正技術が求められる。そこで本研究では、新たな校正技術を開発することで、化学物質毎の国家標準物質を整備することなく、分析現場で使用する多種類の実用標準物質までのトレーサビリティを確保できる効率的な体系の構築を目標とした。具体的には、近年の規制強化における化学物質のほとんどが有機化合物であることを踏まえ、有機化合物を対象としたユニバーサルな校正技術の開発を行った。4 目標を実現する分析方法-定量NMR法4.1 求められる校正技術物質量の絶対値は、国際単位系にトレーサブルな測定によって得られる。このような測定法は一次標準測定法用語6[2]と呼ばれている。一次標準測定法の資格を有する分析法には表1に示すものがあり、一次標準直接法と一次標準比率法に分類される。一次標準直接法は、「物質量の基準となる他の化学物質を用いずに、自分自身で目的の化学物質の物質量を測れる方法(絶対測定法)」であり、電量分析図1 揮発性有機化合物分析用の標準物質のトレーサビリティ体系純物質を凝固点降下法により校正し、23種の混合標準液を調製実用標準物質二次標準物質国家標準物質国際単位系の定義(物質量)他15成分p‐キシレンm‐キシレンo‐キシレンベンゼントルエンブロモホルムクロロホルムジクロロメタン他15成分p‐キシレンm‐キシレンo‐キシレンベンゼントルエンブロモホルムクロロホルムジクロロメタン他15成分p‐キシレンm‐キシレンo‐キシレンベンゼントルエンブロモホルムクロロホルムジクロロメタンガスクロマトグラフ法による同じ成分どうしの校正ガスクロマトグラフ法による同じ成分どうしの校正pm0pm0pm0
元のページ