Vol.1 No.4 2008
9/87

研究論文:ナノテクノロジーから大容量・高出力型リチウム電池の実用化へ(本間)−252 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)したように大学・産総研の基礎研究で探索する活物質サイズ領域と電池メーカーが製品レベルで探索するサイズ領域の間にはいわばミッシング領域とも言えるこれまで未探索のサイズ領域が存在し、このサイズのどこかに出力特性を最適化する値があると想像できる。垂直連携では、このサイズ領域を基礎と実用の両側から効果的に研究し、最適サイズをいち早く明らかにするとともに、電池セルにてその最適解を検証することが必須である。実際、数10 nm ~数100 nmのサイズの活物質はこれまで系統的な調査がなされてこなかった領域であり、今回の垂直連携では、このミッシング領域の探索をイノベーションの重要なマイルストーンとして重点的に研究開発を行った。実際、次のマクセル社の実施例にあるように、実用電極であるスピネル構造マンガンLiMn2O4を用いて55 nm ~200 nmまでサイズの異なる活物質で電池を試作し、その出力特性を評価した。活物質サイズをバルク領域から段階的にナノサイズ領域にシフトさせ、インターカレーション電極ではこれらミッシング領域の中の、どのくらいのサイズで容量と出力を最適化できるか実際に探索した。単にナノサイズ活物質の合成と物性解明を行うだけでなく、製品化を目指して活物質サイズの最適化を行うため系統的な電極特性のサイズ依存性を調べたのは本研究開発プロジェクトが最初であろう。次に垂直連携においては大学・産総研のイノベーションシーズの迅速な有効性の検証が必要であるが、基礎研究で明らかとなったナノ結晶活物質の優れた電極特性の製品への応用可能性を検討するため、電池セルの試作と性能評価を行った。電池セル試作試験は日立マクセル社に依頼し、標準的な仕様のラミネート型セルを作製して評価した。まず試作電池の作製法について述べる。実験に用いた電極体はそれぞれ目標組成に秤量した電極活物質と導電助剤、結着剤のPVDF分散液を遊星型ボールミルで混合後、粘度を調整して塗料状電極ゾルを作製した。この塗料状電極ゾルをアプリケーターを用いて正極・負極ともに15 μm厚のアルミニウムフォイル上に、乾燥後の重量が5.0~7.0 mg/cm2となるように塗布し、乾燥後にプレスして電極体を作製した。試作したラミネート型電池セルの構造と写真を図9に示す。産総研におけるナノ結晶電極の高出力特性の結果を踏まえ、試験セルでは負極には100 nmのLi4Ti5O12電極を用い、正極にはミッシング領域の中で最適な活物質サイズを見出すことを目的として、55 nm ~ 200 nmの異なるサイズのLiMn2O4ナノ結晶活物質を用いて負極・正極ともナノサイズ電極からなる新型電池を作製した。LiMn2O4では若干ばらつきがあるものの150 nm以下の活物質サイズでは2 A/gのレートまで顕著な放電容量の低下は起こらなかった。容量保持率の活物質サイズ依存性からは、粒子径が小さくなると5 A/g以上の高速充放電条件で特性が向上し、結果として55 nmサイズの活物質が最も出力特性に優れている結果となった(図10)。産総研が行った拡散理論に基づく計算では、100 nm以下の粒子径であれば1時間当たり100回の充放電でも粒子内のリチウムイオン拡散はおおよそ間に合う計算になる。実際の試験セルのデータを見ると150 nm以下の活物質サイズの電極を用いた場合では高い電流密度でも充放電が可能であり、活物質サイズを小さくするに従って出力特性が向上することが判明した。活物質サイズをミッシング領域内で最適化した結果、スピネル構造を有するナノ結晶活物質Li4Ti5O12の負極(100 nm)とLiMn2O4の正極(55 nm)を用いた電池セルで最も良好な出力特性が得られ、ナノ結晶電極の革新的なエネルギー貯蔵メカニズムを利用して電池セルレベルでも高出力特性を実証することができた。どのくらいのサイズのナノ結晶活物質を用いるのが高出力電池に最適なのかは今回のプロジェクト開始時から最重要な課題であった。世界的にナノサイズ活物質を用いた高出力電池開発が激化している中で、1 nm〜100 nmのサイズ領域のどこに最適解があるのかを見出すことは蓄電技術のイノベーションの(6)−図8 電極特性を最適化する活物質サイズをミッシング領域で探索する図9 試作したラミネート型電池セルの構造と写真スプリング正極セパレーター負極ミッシングリンクの探索 → 活物質の最適ナノサイズを探索電池メーカーの探索サイズ大学・産総研の探索サイズ未開拓領域LiCoO2活物質の粒子径容量 (mAh/kg)出力密度 (W/kg)ナノポーラス技術・量産化技術最適ナノサイズ?電池セル試験ナノ結晶の開拓現在商用化可能な電極サイズ連携で研究開発未開拓の電極サイズ1001101006080100120140160110101102105104103106nmµm

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です