Vol.1 No.4 2008
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論説:構成的研究の方法論と学問体系(中島)−308 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)我々は構成的手法の一部に分析的手法が使われていると考えている(図5)。たとえば建築の場合を考えよう。建築物に対して仕様記述が与えられたときに、それに合致する機能を持つ建物を直接デザインできれば良いのだが、既に定型化しているような建築様式でない限りそういうことは難しい。普通は仕様を満たしていると思われるものをとりあえず構築(生成)してみる(この部分については5節で述べる)。これは模型かもしれないし、実物の家かもしれないが、とりあえず生成してみることが重要である。実際に生成することによって、必ず求めたもの以上の細部が加わる(具体化される)し、環境との予期せぬ相互作用も発生しうる。したがって、でき上がったものを分析し、その性質を明らかにする必要がある。この分析手法もあらかじめ決まったものとは限らず、生成してみることによって新しい分析手法が決まるかもしれない。分析の結果が定まると、それを元の仕様と比べて、必要なフィードバックをかける。この過程によって仕様が変わるかもしれない。この構成のループは1回では終わらなくて、仕様が変わり続ける限り繰り返される。これが構成的方法論の中心となるループである。注意していただきたいのは、構成のループでは仕様(=目標)が変化していくということである。また、分析の方法は実物を生成した後でないと定まらないという意味で、前述のように、分析と構成は単純な逆方向の行為ではなく、強いて言うなら直交したものではないかと考えている。このように定式化すると、自然科学における分析のための仮説形成という行為は、理論というメタレベルにおいて構成的方法論を実践するループになる。仮説を生成し、それから演繹できる事象に対してそれを検証するための実験(あるいは思考実験)を考えていくことになる。分析的科学においてはこの仮説検証のための方法論(つまり実験)が確立しているが、構成的方法論においては生成されたものの評価・検証方式は確立していない。物語を評価するのと同等の手法(後述)しかないのではないかと考えている。実際、(メタレベルの構成の結果である)仮説の評価に関しても、現象を無矛盾に説明できる仮説が複数ある場合、単純なものが良いという「オッカムの剃刀」基準が用いられることがある。これなども物語的評価の一例であろう。したがって、構成のループはラフには吉川[8]のいう「第2種基礎研究」の過程に対応させることができ、上記の仮設形成の部分は「アブダクション」に対応すると考えてよい.例えば理論研究における法則の導出は構成であるが、その正当性は従来の理論との整合性に関する演繹的分析や実験によって帰納的に検証される。人工物ではこのことは社会的使用によって行われる。このことからいって第1種基礎研究と第2種基礎研究とは全く違う。そして論理的構造を考えるといずれもアブダクションを含むが、アブダクションの全過程における重要性は第2種基礎研究においてより大きい。しかも、第1種基礎研究ではこの検証の過程が、研究者自身か、そうでなくても同じ領域の研究者によって行われるのに対し、第2種基礎研究の場合は研究が行われる世界とは関係のない一般社会で行われる。吉川は製品研究を想定しているため、一般社会のみが検証の場として想定されているが、任意の構成的科学を対象とした場合には「環境」一般を検証の場とする方が妥当であろう。5 進化論的方法論構成のループのうち、「生成」の部分の方法論は何であろうか?私はこれには進化論的方法論しか存在しないと考えている。別名trial and errorと呼ばれる探索手法である。単純化すると以下のプロセスを繰り返すものである(図6)。1.現存の種(seed)から様々な候補を生成する2.候補を評価し、良いものだけを残す 候補の生成は機械的に行うことも可能だが、評価の方が一般的には困難である。ただし、生成も様々な可能性を必ずしもランダムに生成するだけではない。効率的探索手法が必要であり、遺伝的アルゴリズムはその例である。局所的には最急降下法や方程式による解析と最適化も用いることができるだろうが、それは対象の分析がかなり進んだ部分に限られる。(62)−性 質差をフィードバック分析生成構築物 仕様記述 図5 構成のループ選択生成次世代の種図6 進化の図式

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