Vol.1 No.4 2008
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研究論文:ナノテクノロジーから大容量・高出力型リチウム電池の実用化へ(本間)−249 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)長さのポアを拡散する時間も高々1秒と見積ることができる。したがって、図3に示したようにナノポア内に含まれる電解液中の速いイオン拡散(k1)と活物質内部のナノメーターレベルの固体内イオン拡散速度(k3)を利用すれば、ナノポーラス構造電極の粒子サイズが仮にマイクロメーター以上のサイズであっても、秒オーダーで充放電を実現することが可能である。ただし、図3に示した各律速過程の中でも活物質フレームワークの電子伝導 (k4)や活物質の表面反応(k2)が十分速ければ、という条件つきの理論的考察である。他方、このようなナノポーラス電極では比表面積が大きいため、表面の電気化学的反応性に起因するリチウム貯蔵などナノ物質特有のエネルギー物性にも興味が持たれる。表面を利用すれば化学量論組成以上のリチウムを貯蔵する可能性もある。産総研では移動速度論に基づく、このようなナノポーラス結晶活物質の高出力電極特性を確認するためさまざまなナノサイズの電極活物質を合成し、その高速充放電特性を評価してきた。原理的にはナノポーラス構造体電極を作製できればハイブリッド車電源に要求される36秒での充放電が可能になるはずであり、その実現のためにはナノテクノロジー分野のフロンティアである先端溶液プロセス、分子テンプレート合成技術、自己組織プロセス、ナノ結晶の量産化合成プロセスなどの要素技術を統合し、最終的には開発された革新的な電極活物質の有効性をメーカーとの共同により電池セルレベルで検証する必要がある。このような高出力型電池は産業界で広く要望されており、その市場規模も大きいことから近年世界中で開発競争が激化している状況である。3 研究開発の実施と成果実際にNEDOプロジェクトで行った異分野融合と産学官垂直連携による高出力型リチウム二次電池開発の概要を述べ、イノベーションの“短距離化”の戦略が有効であったか検討したい。本研究開発は2005~2007年度に実施したナノテク・先端部材実用化研究開発制度の下に「低抵抗・高イオン拡散性ナノポーラス電極による高出力型2次電池の研究開発」として長崎大学、産総研、日立マクセル、富士重工の4つの参画機関で垂直連携プロジェクトとして行った。制度の趣旨にあるように先端的なナノテクノロジーを用いてハイブリッド車用の高出力型リチウム二次電池を開発するプロジェクトであり、ナノテクを効果的に用いたエネルギー技術であることが独創的なポイントである。また、プロジェクト開始当初からエンドユーザーである自動車メーカーを組み入れたことも特徴であり、大学・産総研の電極技術が短期間でハイブリッド車使用の電源に用いられることを研究開発の中心的課題として置いたことも特徴である。川上側に位置する長崎大学には、基礎化学の観点から高出力特性が期待できるナノポーラス電極材料の無機化学合成プロセスを検討してもらい、実用型電極に応用可能な新しい合成法の開発を行った。界面活性剤のような分子テンプレートを用いたメソポーラス材料は、シリカのようなアモルファス構造では可能であってもリチウム二次電池正極材料であるLiCoO2やLiFePO4などの結晶性活物質に応用するには困難が伴う。そこで、本研究では図4に示すようにコロイド状ポリスチレン(PS)を配列させたテンプレート構造を用いて逆オパール型の電極フレームワーク構造を作製するプロセスを開発した。具体例としてチタニア系ナノポーラス電極の合成例を示す。チタンアルコキサイドのエタノール溶液をPSコロイド結晶に充填し、450 ℃焼成によりアナターゼ型結晶からなるチタニアナノ多孔体を、さらに同溶液にニオブアルコキサイドを混合することにより、 TixNb1-xO2ナノポーラス電極(図5)(3)−図3 電極中での電荷移動過程と律速段階図5 チタニア系ナノポーラス電極図4 大学のシーズ:ナノポーラス電極の合成プロセスポリスチレンコロイド結晶無機源の導入複合体熱処理ナノ多孔体2 µm0.5 µm0.11 µm52 nmメソポーラス電極における電荷移動の律速段階イオン拡散k2 : 表面反応(疑似容量)k3 : インターカレーション(バルク容量)5 nmk4 : 電子伝導ナノ空孔Li+1 µmLi+Li+Li+Li+Li+k1 : Li+e-

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