Vol.1 No.4 2008
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研究論文:ロータリエンコーダに角度標準は必要か(渡部)−297 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)多いのである。このため、各メーカーが独自に定義した「精度」は、どの角度偏差要因をどこまで含んだ値を示しているかわからないブラックボックスと化した値となってしまい、ユーザーはこの「精度」を信用してエンコーダを使うことを強いられ、実際に使用状態での角度情報に含まれる角度偏差をどのように検証し、その信頼性をどのように確保して良いのかわからずに困っていた。このように、ユーザーが要求する角度計測の信頼性の確保を行うためには、これまでエンコーダメーカーが行ってきた部品の高精密化や高剛性化等の技術開発による角度偏差の低減への取り組み以外に、ユーザー自身が利用できる角度偏差の検出とその信頼性の向上へと導く新しい技術要素へのブレークスルーが必要となってきた。そして本稿で説明する角度偏差の「見える化」こそが、そのブレークスルーに他ならない。産業技術総合研究所では、これまで計量標準供給のためのトレーサビリティ体系の確立のために、より高精度な計測機器の研究開発を行っている。角度標準においても1997年より角度の国家標準器[1]の開発に着手し、現在、独自に開発した角度校正装置は、ロータリエンコーダの数10万本の全ての目盛スケールの角度偏差を校正値として短時間に検出することができる。その校正値の不確かさは、0.01秒であり世界最高精度の国家標準器である。本稿では、その中で培ってきた自己校正法による角度偏差の校正技術と開発された自己校正機能付きロータリエンコーダ「SelfA」[2][3]の実用化を目指した取り組みについて触れつつ、研究の方法論を紹介する。2 角度偏差と現状まず、ロータリエンコーダが出力する角度信号にはどのような角度偏差が含まれているのであろうか。ロータリエンコーダが角度偏差を生ずる要因には、図1、図2に示すように大きく分類して先天的偏差要因と後天的偏差要因とがある。先天的偏差要因は、主にロータリエンコーダ自身の構造的欠陥が要因となるものであり、メーカーの製造時に決まってしまう要因である。これには目盛スケールの偏差要因とエンコーダ軸と目盛盤との偏心要因がある。目盛スケール偏差要因は、図2(右下図枠内)に示すように等角度間隔の理想的な目盛スケール位置に対して実際の目盛スケールがずれているために起こる角度偏差である。エンコーダ軸と目盛盤との偏心要因は、ロータリエンコーダの回転軸中心と目盛盤の中心とがずれている偏心が起因する角度偏差である。後天的偏差要因は、ユーザーが使用装置にロータリエンコーダを取り付けた時、またはその後の使用時に起こる角度偏差の要因である。これにはエンコーダ軸と装置回転軸との取付け偏心によるものや、取付け時のエンコーダのゆがみや、使用時の温度変化による装置筐体のゆがみの伝播によるエンコーダのゆがみや、さらに、装置回転軸のベアリングの品質に依存した軸ぶれなども動的な偏心のように振舞い、角度偏差の要因となる。先天的、後天的偏差要因に挙げられている軸と目盛盤、軸と軸の偏心誤差は、図3のように1周期のサイン関数で示される偏差として出力される。これまで高精度化の方法これまでロータリエンコーダの高精度化のためには、先天的偏差要因と後天的偏差要因をできるだけ小さくする技術として以下の方法が採られてきた。① 目盛スケールの線の品質向上(等角度間隔、目盛り線の直線度等)② 取付け治具やカップリングの機能向上による偏心の低減③ 温度変化にロバストな部材、剛性が高い部材を用いたゆがみの低減④ 2つのセンサヘッドを用いた軸偏心のキャンセル技術①~③はロータリエンコーダの部品の加工精度を上げることで、根本的に角度偏差要因を低減する方法である。しかし、④の2つのセンサヘッドを用いた軸偏心のキャンセル技術とは、たとえば図2に示すように目盛スケールの180度対抗した位置に2つのセンサヘッドを正確に配置し、それぞれのセンサヘッドが検出した信号を平均することにより、図2(左中図)のように偏心による偏差をリアルタイムにキャンセルするという方法論による偏差の低減技術である。センサヘッドは図2(左下図)に示すように目盛スケールの目盛間隔ごとにサインの電圧信号を出力する。偏心があると0度と180度位置にあるセンサヘッドが検出し出力するサイン電圧信号に位相差が出るため、2つの電圧の和を求めることにより偏心をキャンセルすることができる。し(51)−カタログ表示の精度目盛スケール偏差軸偏心校正曲線角度偏差 (秒)角度位置 (度)060120180240300360-3020100-10-2030図3 校正曲線に含まれる偏差要因の例
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