Vol.1 No.4 2008
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研究論文:ナノテクノロジーから大容量・高出力型リチウム電池の実用化へ(本間)−248 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)て取れる。これら中大型の高信頼性のリチウム電池は今後とも基幹的なエネルギー技術、すなわち、ロボット、ハイブリッド自動車、再生可能エネルギーに用いることが期待されているが、これらの用途のためには上述したように数kW/kgレベルの高出力型セルの開発が必須であり、そのためにもナノテクノロジーを利用した革新的な電池技術開発に大きな期待と投資が集まっている状況である。実際、温暖化対策のキーテクノロジーであるハイブリッド車や燃料電池自動車に代表されるクリーン自動車用補助電源を想定した場合、エネルギー密度と出力密度を同時に兼ね備えた電源が必要になる。国内自動車メーカー、あるいは米国エネルギー省(DOE)のハイブリッド車用補助電源の性能目標値を図2のラゴンプロットに示した。一般乗用車のエネルギー回生をターゲットとする場合には電池セルのエネルギー密度として30 Wh/kg程度、出力密度として3 kW/kg程度が要求されるが、このような性能はリチウム二次電池と電気二重層キャパシター(EDLC)の中間的な性能である。この性能 (30 Wh/kg、 3 kW/kg)は1時間当たり100回(僅か36秒で充電完了)の充放電速度に匹敵し、現在実用化されているバルクサイズのインターカレーション電極材料ではこのようなエネルギー密度と出力密度を兼備する蓄電デバイスを構成することは不可能である。仮に二次電池的な活物質へのイオンインターカレーションメカニズムを用いる場合は約100倍におよぶ電荷移動速度の向上が必要となる。すなわちエネルギー密度と出力密度の同時獲得を目指して二次電池と電気二重層キャパシターの中間的な蓄電メカニズムを用いる場合は、電極内のイオン拡散と活物質の電子伝導の飛躍的な高速化を同時に実現しなければならない。本稿ではこのような電気エネルギーの高速入出力が可能になる電源の創製を目指してナノ空間とナノ結晶活物質により構成されるナノポーラス電極を開発し、通常のリチウム二次電池に比べて100倍程度高速に充放電可能な高出力型電池を目標とした産学官垂直連携プロジェクトの成果について報告する。特に基礎研究の成果であるナノ結晶電極材料の高出力型電池への積極的な応用展開を行った産総研のオリジナルなコンセプトを紹介し、ナノテクノロジーが電力貯蔵分野のイノベーションに多大に貢献できることを記述する。また、垂直連携による研究開発ではエンドユーザーの自動車メーカーにプロジェクト立案時から参画してもらい、数年後のプラグインハイブリッド車に要求される高出力電源性能(図2の戦略目標値:3 kW/kg程度)を実現する電極材料開発に関して、その安全性や低コスト化など市場競争力も十分持てるよう大学・産総研の基礎研究に方向付けを行ってもらった。これにより、基盤技術開発の成果が大きな仕様を変更することも無く、最短距離で製品化に結びつくような垂直連携型研究開発の有効性を実証するため、4機関の産学官連携プロジェクトをNEDOの支援を得て遂行した。まず、ナノテクノロジーを利用して蓄電技術のイノベーションである高出力型電池がどのようして実現するかについてその物理化学的根拠を記述したい。活物質中における蓄電メカニズムはイオン拡散と電子伝導による電荷授受を伴う電気化学反応が起因である。このとき、固体内のリチウムイオンの拡散係数をDLi、拡散時間をτとすると、この時間内での拡散長Lは以下の式で記述される。L = (DLi τ)1/2 (1)活物質内におけるリチウムイオンの拡散係数を10-13 cm2/s 程度と見積ると、厚さ5 nmの活物質をイオンが拡散する時間τは高々1秒と計算される。また、ポア内の電解液中のイオン拡散係数を10-6 cm2/s程度と見積ると10 μmの(2)−図1 電池技術の革新が創生した工業製品図2 電池性能のフロンティアエネルギー密度 (Wh/kg)出力密度 (W/kg)ハイブリッド自動車用ロボット用電動工具用アシスト自転車用ノートパソコン民生用LIB高出力型二次電池02040601208014016018020022024010050010001500,2000250030003500400045000電力貯蔵における技術的空白領域戦略目標値コンデンサ鉛電池電気二重層キャパシタリチウム二次電池30 Wh/kg,3kW/kg各種電池性能のラゴンプロット10-210-1103102101100103102101106105104エネルギー密度 (Wh/kg)出力密度 (W/kg)
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