Vol.1 No.4 2008
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研究論文:光触媒技術の開発と応用展開(垰田)−289 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)まざまな応用が可能であるが、用途に応じてそれに適合した形態(例えば、防汚では表面が平滑な方が良く、脱臭などでは表面がでこぼこで表面積が大きなものの方が良い)があり、実用化・製品化を行うためには実際の使用に即した光触媒を開発する必要があった。このように、実際の使用に対して有効な光触媒及び光触媒製品の開発が技術的な死の谷となっていた。3.2 経済的な死の谷光触媒技術は上記のように適用範囲が広いが、それぞれの用途において既存技術がある場合には、既存技術と比較した場合のコストパーフォーマンスが問題となる。チタンは地殻中に9番目に多い元素であり、その酸化物の酸化チタンは顔料などとして使われており、資源的に豊富で安価であるが、光触媒として使われている酸化チタンは一般的にナノサイズの超微粒子で、粒子の大きな顔料の酸化チタンと比べると10倍ほど高価である。また、夜間の使用や装置化の場合には人工光源を用いる必要がある。新技術である光触媒技術を実用化するためには、既存技術よりも安くあるいはそれに近くなるように低コスト化することや、既存技術にない利点を持たせることが必要である。さらに、光触媒技術を普及させるためには、土木の現場などで大量に使用できるようにする必要がある。そのための既存技術に取って代わるようなコストパーフォーマンスを持った光触媒及び光触媒製品の開発や大量かつ安価に提供できる光触媒及び光触媒製品の開発が経済的な死の谷となっていた。3.3 社会的な死の谷どんなに優れた技術を開発しても、社会で使われなければ意味がない。光触媒を用いた製品は、例えば、セルフクリーニング効果について目に見える形で効果が分かるようになるためには施工後、数ヶ月かかるなど、その効果が直ぐには分かりにくいという特徴を持っている。そのため、まがい物や偽物が出やすく、消費者の信頼を得られにくいという問題があった。また、光触媒の性能を評価するための信頼性のある統一した試験法がないため、光触媒の性能の比較ができず、高性能光触媒の開発の障害となっていた。そのため、光触媒の性能評価試験法の標準化や光触媒技術の啓蒙が必要であった。その際、光触媒は用途によって性能が異なるため、用途別の性能評価試験法を開発する必要があった。光触媒性能評価試験法は高性能光触媒を開発する上でも 「ものさし」として必要不可欠である。このように消費者の信頼を得て社会に受け入れられるようにすることと、さらに、光触媒を製造・販売するためには安全性や、電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する欧州議会及び理事会指令(RoHS)、廃電気・電子製品指令(WEEE)などの環境規制、薬事法、公害関連法、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)などの法規制に適合しなければならないが、それが社会的な死の谷となっていた。3.4 目標達成のためのシナリオ開発した光触媒技術が社会で使われるようにするためには、上に挙げた3つの死の谷を越える必要があると考えた。そのために以下のシナリオを考えた。まず、技術的な死の谷であるが、一般的に技術開発は第1種基礎研究から第2種基礎研究を経て開発・実用化へと直線的に進んで行くというふうに考えられている。しかしながら、光触媒技術の場合、研究を始めた25年ほど前には第1種基礎研究の成果というものがほとんどなかった。光触媒の原理としては本多-藤嶋効果が非常に有名であるが、これは実際には酸化チタンの光電極反応による水の分解であり、光触媒を用いて行ったものではなかった。また、光触媒のメカニズムについても光の照射により電子と正孔が生成して光触媒反応を起こすということ以外、ほとんど分かっていなかった。そして、光触媒の性能を上げ、反応速度を上げるための方法としては、電子と正孔の再結合による消滅を防ぐということが知られていただけで、実際にどうすればよいのかが分かっていなかった。そこで、実際の使用を念頭に置きながら、用途に応じた高機能光触媒の開発を試行錯誤で行わざるを得なかった。つまり、酸化チタンをベースにしてそれを高機能光触媒にするためには何を添加すればよいのか、試行錯誤で探し出すことにした。そして、その添加要素の発見により用途に応じた高性能の光触媒を開発し、その用途への応用を行い、その結果をフィードバックしてさらに高性能の光触媒の開発を進め、それを用いてさらに新しい応用展開を図ることにした。その際、光触媒の研究開発は学際研究であり、光触媒技術の開発を迅速かつ効率的に行うためには、さまざまな分野の専門家や優れた技術を持った技術者や企業との連携が必要であり、その参入を促すとともに、連携して研究開発を戦略的に進めることにした。次に経済的な死の谷については、安価かつ安全で大量供給可能な酸化チタンをベースに、産業廃棄物を基材に利用して低コストの光触媒や光触媒製品を開発するとともに、既存技術にはない利点を持った応用展開を進めることにした。これにより、産業廃棄物から環境浄化材料を作製することができて産業廃棄物のリサイクルにも貢献することができるとともに、これまでにない応用展開が可能となる。さらに、社会的な死の谷については、光触媒に関する研(43)−
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