Vol.1 No.4 2008
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研究論文:光触媒技術の開発と応用展開(垰田)−288 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)電子と正孔は非常に強い還元力、酸化力を持っており、水と溶存酸素などとの反応により、OHラジカルやスーパーオキサイドアニオン(O2-)などの活性酸素を生じる。この正孔やOHラジカルは特に酸化力が強く、有機物を構成する分子中の炭素-炭素結合、炭素-水素結合、炭素-窒素結合、炭素-酸素結合、酸素-水素結合、窒素-水素結合の結合エネルギーは、それぞれ83 kcal/mol、99 kcal/mol、73 kcal/mol、84 kcal/mol、111 kcal/mol、93 kcal/molであるのに対し、正孔やOHラジカルのエネルギーは120 kcal/mol相当以上とはるかに大きいため、これらの結合を簡単に切断して分解することができる。この作用により、水中に溶け込んでいる種々の有害な化学物質や悪臭物質のような空気中の化学物質など、さまざまな有害有機物質を光の照射によって、簡単に分解・無害化することができる。しかも、有毒な薬品や化石燃料などを使用せずに、クリーンで無尽蔵の太陽光を利用して、拡散した環境汚染物質を安全にかつ効率良く半永久的に処理でき、環境分野の幅広い応用が可能であるなど、数多くの利点を持っている。本研究では、水処理や空気浄化、抗菌防かび、防汚などの実際の使用・用途に応じた低コストで高性能の光触媒の開発を行うとともに、それを用いて環境分野へのさまざまな応用展開と実用化を行い、光触媒製品の普及を通して地球環境浄化を目指そうとするものである。3 目標実現に向けた研究シナリオ新技術の産業化を実現するためには、超えなければならない死の谷があるといわれている。これまで、死の谷は技術的な面のみ、つまり、技術的なブレークスルーのみが強調されてきたが、実際にはそれだけでなく経済的な面と社会的な面も存在する。 すなわち、実用化を実現するためには、性能向上などの技術的な死の谷だけでなく、同じ用途の既存技術と比べたときのコストパーフォーマンスの改善などの経済的な死の谷と、実際に消費者に使用され受容されるための信頼性や安全性の確保などの社会的な死の谷が存在すると考えられる。そのため、光触媒技術を実用化し、製品化・産業化するためには、この技術的な死の谷と経済的な死の谷と社会的な死の谷という3つの死の谷を超える必要があると考えた。3.1 技術的な死の谷光触媒反応は元々、白色顔料である酸化チタンなどを含んだ塗料に太陽光を当てておくと塗料がぼろぼろになっていく塗料の劣化などとして第二次世界大戦以前から知られており、長い間やっかいもの扱いであった。そのため、酸化チタンなどを製造している顔料メーカーはこの光触媒反応を抑えるため、光触媒反応を起こさないセラミックスで酸化チタンなどの顔料の表面を被覆するなどの劣化防止の研究に力を注いできた。ところが、この光触媒反応を逆に環境の浄化や有用物質の合成に積極的に利用しようという研究が1950年代に京都工芸繊維大学の増尾富士雄・加藤真市らによって行われた[1]-[3]。この光触媒を用いた有害有機化学物質の分解・無害化の研究はその後、世界中で行われ、これまでに炭化水素や、有機塩素化合物、農薬、合成洗剤など、さまざまな環境汚染物質に対して実験が行われ、分解・無害化が可能なことが報告されてきた。しかし、これらの実験では光触媒として微粉末のものが用いられており、水処理において処理後の水と触媒の分離が困難なことや、脱臭処理の場合に粉末の空中への飛散が起こるなど取扱いが難しく、バッチ処理しかできないなどの欠点があり、実用化が進んでいなかった。そのため、光触媒の実用化を進めるためには光触媒を基材に固定化することが必要不可欠であった。また、光触媒は対象物質が表面に来なければ分解することができないという制約があり、さらに光触媒の反応速度はかなり遅く、高濃度の汚染物質の除去や短時間で処理することが難しいなどの問題があった。加えて、光触媒を繊維やプラスチックに付着させて使用すると光触媒作用でそれらが分解されてしまうため、繊維やプラスチックへの適用が不可能であった。そして、光触媒は環境分野へのさ(42)−図1 酸化チタンのエネルギー準位と光触媒反応V=電位、NHE=標準水素電極。V vs NHEは標準水素電極に対する電位、つまり、標準水素電極を基準に用いたときの電位。hν=光のエネルギー。・ OH 120 kcal/molC - HO - HC - CIC - C99 kcal/mol111 kcal/mol81 kcal/mol83 kcal/mol-1.00.05.04.03.02.01.0OH-eO2O2/H2OeO2-O+/H2・ OHTiO2hνV vs NHE

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