Vol.1 No.4 2008
44/87
研究論文−287 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)1 光触媒技術開発の背景近年、焼却場で発生するダイオキシンや船底塗料に使用されている有機スズ化合物、PCB、農薬、溶剤、洗浄剤などさまざまな有害化学物質による環境汚染が地球規模で進行しており、人類の生存を脅かす深刻な問題となっている。これらの有害化学物質の中にはppb程度の極めて低い濃度でも有害なものもあり、水や大気、土壌などを地球規模で汚染しているため、処理が大変困難である。従来、環境汚染物質の処理は捕集して濃縮し、焼却するという熱分解による方法で行われてきた。しかし、この方法で環境を浄化しようとすれば、汚染が広範囲に拡がっているため、膨大な量の水や大気、土壌を処理しなければならず、そのためには、化石燃料などの大量のエネルギーが必要となり、その使用に伴って多量の二酸化炭素が発生し、さらに焼却処理に伴いダイオキシンなどの有害物質を生成する恐れがある。したがって、従来の技術で環境中に低濃度で広範囲に拡がっている環境汚染物質を除去しようとすれば、エネルギー危機と地球温暖化とさらなる環境汚染を招くことになる。これまで環境汚染の計測技術や分析技術は進歩して環境汚染の実態が明らかになってきているが、地球規模で環境汚染を修復・浄化する技術の開発は遅々として進んでいなかった。そのため、化石燃料や有害な化学薬品を使用しないで環境を浄化することができる持続可能な環境浄化技術が切望されていた。こうした持続可能な環境浄化技術の開発は、これまで多量の環境汚染物質を排出してきた先進国の責務であり、科学技術立国を標榜している日本で開発すべき産業技術である。そして、その開発及び実用化と製品の普及によりわが国の産業の発展に貢献するとともに、世界の環境改善に貢献することができる。光触媒は光の照射により、有害有機化学物質を二酸化炭素や水などに分解・無害化することができる。そのため、本開発の光触媒技術を使用すれば、化石燃料や有害な化学薬品を使用しないで地球環境を浄化することができ、水処理、脱臭、VOC処理、大気浄化、防汚、防曇、抗菌防かび、鮮度保持、ダイオキシン処理など、環境分野における幅広い応用を行うことができる。このように光触媒はさまざまな環境汚染に対応でき、地球環境浄化の有力な手段であるが、実際の使用を考えた場合、反応速度が遅いことや取り扱いにくく繊維やプラスチックへの適用が難しいなどの技術的課題や、経済性、信頼性の問題など、解決すべき多くの問題点があった。 2 光触媒技術開発の目的と目標 光触媒は光を吸収してエネルギーの高い状態となり、そのエネルギーを反応物質に与えて化学反応を起こさせる物質のことである。光触媒として用いられるのは半導体や金属錯体などであるが、その中で最もよく使用されているのが酸化チタンである。酸化チタンは顔料として広く使用されており、歯磨き粉や化粧品にも使われ、食品添加物としても認められている安全無毒で安価で耐久性に優れた物質である。この酸化チタンに光を当てると、図1に示すように、太陽電池に使われているシリコンなどと同様、マイナスの電荷を持った電子とプラスの電荷を持った正孔が生成する。この研究論文光触媒は光の照射によって難分解性の有害有機化学物質を水や二酸化炭素などに分解・無害化し環境を浄化することができる。実際の用途や経済性、法規制などを考慮しながら高機能光触媒の開発を行い、それを用いて環境分野へのさまざまな応用展開を行った。その結果、現在さまざまな製品が市場に出ている。光触媒技術の開発と応用展開ー 持続可能な環境浄化技術の産業化 ー垰田 博史 産業技術総合研究所 サステナブルマテリアル研究部門 〒489-0884 瀬戸市西茨町110 産総研中部センター瀬戸サイト (41)−
元のページ