Vol.1 No.4 2008
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研究論文:土壌・地下水汚染のリスク評価技術と自主管理手法(駒井ほか)−285 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)産業技術総合研究所)科学技術特別研究員、2001年4月産業技術総合研究所入所。シリカの重合技術・析出メカニズムや土壌汚染評価等の研究に携わっている。本論文では、土壌の吸着および溶出特性の研究を担当した。査読者との議論 議論1 本研究の第2種基礎研究、製品化研究としての意義について質問・コメント(小野 晃)本研究は、さまざまな要素が複合的に絡んでいる環境やリスクに関する課題を、第2種基礎研究の構成的アプローチによって解決した優れたものと思います。また社会で直接使うことができる評価システムにまで仕上げたことは、製品化研究としての意義も大きいと思います。質問・コメント富樫 茂子)全体として、構成学を意識した仕上がりとなっており、アウトカムを強く意識した研究戦略のシナリオが明確に示されており、構成学としての試みの良い例を提供していると評価できます。将来への展望も記述されています。議論2 曝露、リスク、毒性の関係について質問・コメント(小野 晃)本文中に「曝露」、「リスク」、「毒性」という用語が出てきますが、それぞれの意味と相互の関係はどのようなものでしょうか。また、どのような経路で人は土壌を摂食したり吸入したりするのでしょうか。本文中に「土壌の直接摂食」と「土壌の直接吸入」が出てきますが、人が土壌を「食べる」、ないしは「吸う」という行為が実際にどのような状況と経路で起こるのでしょうか。またその量はリスクの観点から無視しえないほど大きなものになることがあるのでしょうか。回答(駒井 武)本文の第3図に概念を示しました。環境を経由して人が有害化学物質を摂取することを「曝露」と呼びます。その結果、健康障害や悪い影響を与えるのですが、その確率および影響の大きさのことを「リスク」と言います。「リスク」は、「曝露」の量と「毒性」の値から算定されます。発ガン性のある化学物質の場合では、「リスク」の大きさは、「曝露」の量と 「毒性」の値の積として求めることができます。「土壌の直接摂食」とは、有害化学物質を含む土壌が手や皮膚に触れることにより取り込むことを言います。主として子供の時期に、砂遊びなどにより土壌に直接触れ、摂取する量が多いとされています。ダイオキシン類の土壌環境基準を検討した環境省のデータによると、子供の時期の平均摂食量は200 mg/日とされています。また、「土壌の直接吸入」は農作業や庭の手入れなどにおいて、粒子状の土壌を摂取することを言います。重金属の汚染土壌におけるリスク評価の算定では、汚染土壌からの全摂取量のうち、「土壌の直接摂食」は約50 %、「土壌の直接吸入」は約5 %であり、相当な割合を占めていることが分かります。議論3 統一的な指標(あるいは共通の尺度)として採用したものについて質問・コメント(小野 晃)3章に「統一的な指標」ないしは「共通の尺度」が論じられています。異なる複数の技術領域から要素技術を抽出して、それらを統合・構成する第2種基礎研究の場合、統一的な指標あるいは共通の尺度をあらかじめ設定することが重要なポイントと思います。本研究で、統一的な指標(ないしは共通の尺度)は具体的にどのようなものでしょうか。またそれを設定するときの考え方や背景も合わせてご説明下さい。回答(駒井 武)これまでに環境施策において採用されている指標は、主として環境基準(人の健康を守る上で維持することが望ましい値)です。しかし、土壌や地下水のような媒体では、汚染があったとしても十分に管理された状況では、必ずしも人への健康影響がないケースもあり得ます。そこで、より現実的な環境や人の状況に応じた「統一的な指標」として、本研究では「環境リスク」を採用しました。「曝露」の量や分布は、土地の状況、表層土壌や地下水の状況、人の生活形態などによって大きく変わります。また、本研究で採用した 「共通の尺度」は、有害化学物質の曝露に基づく健康影響です。「曝露」の量を正しく評価する手法は、健康や環境への影響を判断する上で普遍的な尺度と考えられます。議論4 リスク評価の信頼性について質問・コメント(小野 晃)6.1節で述べられていますように、本研究で開発した手法(方法論)やデータベースに基づいてリスク評価を行った場合、その評価結果がどの程度の信頼性を持っているかは、この評価システムを利用するユーザーにとって関心事と思います。リスク評価の結果には常に不確かさがつきまとうと思いますが、不確かさの主要な要因にはどのようなものがあると考えておられますか。評価手法とデータベースのそれぞれについてお答えいただければと思います。また、5.3節で述べられたヒ素とトリクロロエチレンの評価事例では、最終結果の不確かさは何%くらいになると見積もられますか。およその値で結構ですのでお答え願えればと思います。回答(駒井 武)リスク評価における評価結果の信頼性はきわめて重要であり、これを高めるためには曝露モデルの精緻化と使用するデータベースの質・量を高めていくことが必要です。本研究では、産業技術総合研究所が独自で開発したリスク評価の方法論とデータベースをもとに、多数の専門家の検証を受けており、十分な信頼性を有する手法と考えています。また、ユーザーが評価した結果も評価システムにフィードバックして、信頼性を高める工夫もしています。リスク評価の不確かさは、データのもつ不確実性(知識の欠如に由来する)と変動性(固有の多様性)に依存します。本評価では、主に土壌と地下水のパラメータが不確実性の要因になります。地質の調査を十分に実施することにより、パラメータの不確実性を低減させることが可能です。また、本評価では変動性の要因は考慮していませんので、ヒ素およびトリクロロエチレンの評価事例では、最終評価結果の不確かさは5 %未満であると推定されます。議論5 本評価システムの生態系への拡張について質問・コメント(小野 晃)6.1節で述べられていますように、本評価システムは土壌と地下水の汚染以外にも適用範囲を拡張することが可能なように思えます。生物を含む生態系へこの評価システムを拡張する場合には、新たにどのような課題を解決しなければならないと考えますか。回答(駒井 武)曝露・リスク評価の方法論は、土壌や地下水の汚染問題だけでなく、水質や大気質、さらには生態系のようなグローバルな環境問題にも適用可能な汎用性の高いものです。例えば、植物や水生生物への環境影響といった多様な課題にも適用範囲を拡大することを考えています。このためには、生物への有害化学物質の取り込みのメカニズム、生物の多様性に対する応答(エンドポイント)などを明らかにし、評価システムに反映させていくことが必要です。また、河川や海洋における化学物質の移動や反応などを含む曝露評価モデルの開発も重要な課題となりますので、産業技術総合研究所内で開発が進められている様々な曝露評価モデルとのリンクを考えています。議論6 構成学的な特徴(図2)と関連する学術分野と検討項目(表1)について(39)−

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