Vol.1 No.4 2008
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研究論文:土壌・地下水汚染のリスク評価技術と自主管理手法(駒井ほか)−283 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)壌汚染評価者の認定制度「環境サイトアセッサー」において、ここで述べたリスク評価の方法論と評価システムが採用され、GERASは産業環境管理の実務に広く活用されている[22]。現在、土壌汚染対策法の改正に向けた検討が行われている。2008年3月に環境省より提出された「土壌環境施策に関するあり方懇談会報告」[23]の中で、今後の土壌汚染対策において、サイトごとの汚染状況に応じた合理的かつ適切な対策の実施、法制度と自主対策の関係のあり方に関して一定の考え方が提示された。すなわち、土地用途ごとのリスク管理の重要性が指摘され、法改正に向けて大きな転換時期となっている。これらの検討の基礎となったのが、筆者らの提案したリスク評価手法およびガバナンスの考え方である。サイトごとのリスクを適切に評価し、そのリスクを合理的に管理していくことの重要性が社会的も認知され、リスク評価手法が社会システムに導入されようとしている。海外では、2008年4月に開催されたドイツ・ハノーバーメッセにGERASを出展したところ、欧州の産業界や研究者から大きな反響があった。米国で開発されたRBCAシステム[24]と比較して、ユーザー指向のシステム開発、データ類のフィードバックによる逆解析の実現、土壌や地下水データの豊富さなどに優位性があり[25]、欧米の研究機関などからも多数の問い合わせが届いている。今後、さらにシステムの改良と機能追加を行い、国内のみならず世界に向けての研究成果の発信と普及に努めていきたい。 7 結論土壌・地下水汚染のリスク評価技術を開発するため、様々な研究分野の要素技術を統合して、統一的な方法論およびデータベースの構築に基づいてリスク評価システムとして完成させた。この研究開発では、土壌汚染対策におけるリスクベースの対応やガバナンスなどの新たな方法論を導入し、要素技術の最適な選択と統合、リスク評価の実践におけるスパイラル構成などの特徴的な研究開発を行った。その結果、わが国初の土壌・地下水汚染のリスク評価システムを開発し、数多くの事業所や自治体などに普及・導入させることができた。本評価システムは、環境マネジメントシステムや法制度への組み込みが予定されており、本格的なリスク管理施策の確立に向けての社会的な貢献は大きい。また、諸外国における同様の評価システムに対する優位性も高く、今後世界に向けての成果発信を行う予定である。さらに、評価システムの運用に必要な土壌・地質関連の地圏環境情報の整備を進め、公共財としての活用を図っていく。果として、システムの普及および法制度への適用によるコストの軽減が期待できる。また、曝露経路の遮断やコントロールによるリスクの軽減、さらには微生物活用などの新浄化手法の普及によるリスクの軽減も期待できる。すでに産業界の自主管理に本評価システムが広く活用されており、環境改善を実現すると同時に経済的な(すなわちコスト/ベネフィットを考慮した)土壌汚染対策が可能となり、環境と経済の両面からの社会貢献が大きい。一方、リスクコミュニケーションの観点からは、本評価システムの導入により透明性の高い情報伝達と意思決定に寄与できると考えられる。実際に受ける曝露とリスクの大小、対策の前後のリスクの軽減効果、対策コストとリスク軽減の費用対効果などを明らかにすることにより、合理的かつ科学的なリスク管理が可能になる。さらに、リスク評価により未利用産業用地(ブラウンフィールド)の円滑な活用に向けての指針を得ることも大きな利点である。6.3 社会システムの構築に向けての展望研究レベルで開発したリスク評価技術を実社会に適用できるように確立するには、いくつかの克服すべき課題がある。その1つが、技術の信頼性および透明性であろう。本評価システムの開発では、開発者と使用者の間で双方向のコミュニケーションを行うことにより、産業や社会への円滑な適用を図った。また、環境マネジメントシステムEMSなど具体的な社会システムに組み込むことも普及の重要な契機となる。環境マネジメントシステムの中には、事業所などが自主対策を行う際のサイトアセスメントの手法と手続きが示されている。これまでにわが国では統一的なリスク評価手法がなかったことから、筆者らが開発したGERASを活用することにより汚染評価や浄化対策などの自主管理が行われている[21]。(財)産業環境管理協会で運営している土(37)−浄化費用(コスト削減)環境改善(リスク軽減)西暦年%200520102015202020252030050100図10 リスク管理施策によるリスク軽減とコスト削減の推算[20]GERAS等を活用したリスク管理施策の導入により改善されるリスク軽減とコスト削減の年度展開を予測したものである。2025年までに、リスク軽減とコスト削減のいずれも50 %以上の効果が期待できる[20]。
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