Vol.1 No.4 2008
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研究論文−247 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)1 研究の背景現在、日本は先進各国とともに2つの大きなエネルギー問題に直面している。1つはBRICsを中心としたエネルギー需要の急激な増大と第三世界の経済成長による資源獲得をめぐる国際競争激化からエネルギー制約が構造的に高まりつつあること。2つ目は地球温暖化による大気環境の激変による食糧生産の減少、ならびに異常気象の増大により人間の生存可能空間が著しく脅かされ、これまで持続可能性を有していた生物圏が激しいリスクにさらされていることである。なかでも資源小国であるわが国は経済発展の土台であるエネルギー供給に多くの不安定要素を抱えており、国家のエネルギーセキュリティー向上のためのエネルギー技術のイノベーションが最重要課題として認識されている。高出力型リチウム二次電池は温暖化対策効果が大きく、また同時に産業競争力の向上に貢献するプラグイン・ハイブリッド車や電気自動車の市場導入を加速するため、現在世界各国で熾烈な開発競争が繰り広げられている。そこで要求されている電池の高出力性能は、従来型材料技術では実現困難であるため、蓄電技術におけるイノベーションが期待されているところである。特に近年のナノサイエンス、ナノテクノロジーの進展を背景として、電気化学的活物質の精密なナノ構造制御に基づく大容量・高出力型電極材料の開発に多大な関心が持たれている。筆者はこのような先端ナノテクノロジーに基づく革新的な活物質に興味を持ち、これまで高速充放電型電極の開発を行ってきた。イオンの拡散距離が極めて短くなるナノ結晶では電荷移動速度が飛躍的に大きくなるため、高速充放電型電池が設計可能であることが理論的には予想されてきた。筆者の研究チームではナノテクノロジーの先端プロセスを応用し、従来型の材料技術では合成できなかったナノ結晶やナノポーラス構造電極を作製することにより、従来の性能を凌駕する高出力特性が可能であることを実験室レベルで明らかにしてきたが、実際、それらの新しい材料設計コンセプトが次世代ハイブリッド車用電源として用いることができるかどうかを電池メーカーや自動車メーカーと産学官連携開発プロジェクトを行うことにより検証してみることにした。本稿ではエネルギー貯蔵分野のイノベーションにおけるナノテクノロジーの有効性を議論し、実際の技術開発成果を紹介するだけでなく、イノベーションの迅速な産業化のための産学官垂直連携プロジェクトの有効性に関しても論証する。2 ナノテクノロジーとエネルギー技術の分野融合による革新的電池技術の開発図1に近年急速に実用化が進んできたリチウム二次電池の性能のラゴンプロットとそれを利用した革新的エネルギーデバイスおよび製品の例を示した。現在、既に実用化されているのは携帯電話やノートパソコンであるが、これらは小型・小容量のリチウム電池を用いており、高い出力密度を必要としないデバイスである。近年、リチウム電池の中型化と高出力化が可能となり、自転車補助電源や電動工具(パワーツール)に用いられ始めている。リチウム電池技術のフロントは小型から大型デバイスへと進んでおり、さらに自動車電源への応用を目標に大容量化・高出力化・低コスト化が重要な開発課題となっている。図1に示すように右下から左上に向かって電池技術応用のフロントが動いていくのが見研究論文ナノテクノロジーとエネルギー技術の分野融合を図り、ナノ結晶電極をベースとした大容量・高出力型リチウム二次電池の研究開発を行った。また、基礎研究成果を迅速に実用化に結びつけるため垂直連携型の産学官プロジェクトを実施した。この産学官連携では大学、産総研、電池メーカーと自動車メーカーの川上から川下に至る4つの参画機関による垂直連携型のプロジェクトにより大学・産総研の革新的成果の最短距離での実用化を目指すことができた。電池メーカーの協力を得て、ナノ結晶活物質を用いた高出力(3kW/kg )・大容量型(30 Wh/kg)の高性能リチウム二次電池が試作できた。異分野融合と産学官垂直連携の組み合わせはイノベーションの“短距離化”を実践する有効な研究開発プロセスである。ナノテクノロジーから大容量・高出力型リチウム電池の実用化へー 異分野融合と産学官垂直連携によるイノベーションの“短距離化” ー本間 格産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門 〒305-8568 つくば市梅園1-1-1 中央第2 産総研つくばセンター E-mail:(1)−

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