Vol.1 No.4 2008
39/87
研究論文:土壌・地下水汚染のリスク評価技術と自主管理手法(駒井ほか)−282 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)(36)−今後、環境汚染物質の移流・分散解析や浄化によるリスク軽減を評価するための詳細モデルGERAS-3の開発を行い、GERASの全体バージョンとして仕上げていきたい。評価システムの開発と並行して、多くの使用者から汚染サイトにおける実際の評価データを集約し、その結果をフィードバックしてGERASの改良に反映させている。土壌・地下水汚染の特性はサイトごとに多様であり、また評価結果には時間的、空間的な差異もあることから、使用者が行ったリスク評価の結果はきわめて貴重なものである。このような評価データを集積・解析することによりシステムの有効性の検証を行うとともに、システムの改良やデータベースの追加などのバージョンアップを逐次行っている。これまでに、土壌・地下水データベースの改良、対象化学物質の追加(鉱物油等、バイオ燃料(MTBE、ETBE)、PAHs、ふっ素、ほう素)、溶出値による評価手法の改善などを行い、数回のバージョンアップを行っている。 6 今後の技術的課題と社会への適用地圏環境リスク評価システムを環境汚染問題に適用し、技術を社会に普及・定着させていくまでの課題やプロセスについて、産業や社会への貢献や社会システムへの反映を中心に述べる。 6.1 今後の技術的課題すでに5章で述べたように、開発したGERASには多様な要素技術やデータベースが組み込まれている。これらの最適な構成や使用するデータ類の信頼性については、これまでの研究開発でも十分に検証されているが、リスク評価技術の高度化については更なる検討が必要である。このため、リスク評価結果の不確実性や統計学的な解析に関して、基礎的な研究開発を継続する予定である。これらの研究は、環境汚染問題に対するリスク評価技術が公的に認知されるために必須であり、円滑なリスクコミュニケーションを推進する上できわめて重要な事項である。また、技術の社会的な受容性を高めるためには、評価事例を増やしてリスク評価やデータベースの信頼性を向上させることも重要であろう。すなわち、リスク評価技術の普及にあたっては、出口側の評価結果から入口側の方法論や基礎データに立ち返って、図9に図示するようなループ的な改善の継続を行うことが本研究開発の最も重要なプロセスといえる。すなわち、土壌汚染に起因するリスクを回避するためのシナリオを検討し、リスク評価の結果として許容できるレベルを超過する場合にはリスクの処理あるいは管理を実施する必要がある。また、リスク評価の実施に際しては、図9の下部に示すように適切な調査や分析による信頼性の高いデータの取得・蓄積が重要であり、このような重層のスパイラル構成に基づいてリスクの軽減とコストの低減が図られる。GERASは土壌や地下水の地圏環境を対象にしたリスク評価システムであるが、生態系や地球規模の環境問題に対しても拡張できる可能性がある。すでに、水生生物や地中微生物などの生態系に及ぼす有害金属元素の影響に関して基礎的な検討を進めており、多くの要素技術はそのまま適用できる。また、最近の火急の課題である二酸化炭素地中貯留や核廃棄物地層処分におけるリスク評価においても、同様の手続きや基礎データが活用できる可能性があり、具体的な検討を開始した段階である。6.2 土壌・地下水汚染対策への貢献本評価システムの活用によって得られる最大の効果は、科学的なリスク評価に基づく自主的な環境改善である。汚染状況や用地ごとの曝露とリスクを把握し、対策の前後でリスクの大きさを比較できることは効果的なリスク管理を行う上で意義が大きい。例えば、曝露経路ごとのリスクを知ることができるので、主要な曝露の回避や曝露経路の遮断といった具体的なリスクの低減措置に反映できる。これらの曝露やリスクの基本情報は、これまでの一律の環境基準を与える規制に比べて、対策コストの削減にも大きく寄与する。図10は、本評価システムの導入によるリスク軽減とコスト削減の予測結果を示したものである。今後、産業界を中心としてリスクベースの取り組みが普及していくことが予想され、2025年までに50 %以上のリスク軽減とコスト削減が期待される[20]。本研究で開発したリスク評価技術の効事後評価継続的な実施調査・観測曝露解析リスク解析土壌汚染問題の明確化リスク評価リスク管理ハザード特定リスクシナリオ図9 環境リスク管理におけるループ構造および重層のスパイラル構成土壌・地下水汚染に関わる環境リスク評価および管理に有効なループ構造とスパイラル構成を示している。リスク評価システムGERASを活用した実践においても、このような重層の構成による環境改善の考え方が重要である。
元のページ