Vol.1 No.4 2008
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研究論文:土壌・地下水汚染のリスク評価技術と自主管理手法(駒井ほか)−280 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)研究にフィードバックするケースが多かった。それに加えて評価システムの使用者の要望に応えて、入力や出力などのシステムの改良を行い、より活用しやすいシステムへと発展させていった。以上のようなフィードバックとスパイラル構成(図2)により、信頼性の高いリスク評価システムの開発に向けての統合的な取り組みを行った。5.2 評価システムの概要と基本機能開発したGERASの基本構造を図4に示す。様々な現場状況や用途に活用することを想定し、スクリーニングモデル(GERAS-1)、サイトモデル(GERAS-2)、詳細モデル(GERAS-3)の3層構造とした。システム開発では、上述の基礎的、基盤的研究の成果をベースにして、要素技術の統合および新たな構成のプロセスを導入した。ここではGERASの開発における技術的な克服やその特徴的な構成を中心に、重金属類や有機化合物を対象とした曝露・リスク評価を行った事例について述べる。GERASは図5のようなWindows上で動作するシステムである。有機炭素含有量が多いなどのわが国特有の土壌特性や曝露ファクターを考慮し、また有機化合物については、土壌溶出値を入力することにより評価が可能である。実際の評価作業では、まず対象化学物質を選択し、基礎パラメータの設定を行う(図5のAの部分)。その後、サイト特有の土壌 (図5のCの部分)、地下水(図5のDの部分)、曝露経路(図5のBの部分)ならびにレセプター(曝露対象:たとえばヒト)に関するパラメータ設定(図5のE-Gの部分)を行う。図5中のH-Iの項目は、土壌摂食量、地下水摂取量、呼吸量などの主要な曝露ファクターである。GERASにおいて考慮した曝露経路は、土壌の直接摂食、飲用水や農作物を摂取する経口曝露(口から摂取する曝露)、土壌から大気へ揮散した化学物質や飛散した土壌粒子を呼吸する吸入曝露および土壌との接触や飲用水との接触による皮膚吸収曝露とした。これらのパラメータの設定が完了すると計算が行われる。本評価システムでは、はじめに土壌における固体、液体(間隙水)および気体(土壌空気)を対象として化学物質のフガシティー容量(大気、水、土壌などの環境の各相における分配容量)の計算を行う。初期条件として居住地域における土壌からの有機塩素化合物の溶出値を与えることにより、土壌空気および土壌間隙水中の化学物質の濃度を算出する。この計算では土壌中の有機炭素量やpHおよび吸着などのファクターにより、それぞれの化学物質に対して異なった値が得られる。次に土壌の各相から大気や地下水への移動過程の計算を行い、各種曝露媒体 (大気、作物、地下水など)中の曝露濃度が決定される。最後に曝露シナリオに基づいて、各環境媒体からヒトへの曝露量が算出される。その結果から有害化学物質の毒性によりリスクが計算される。リスクの計算には、発ガン性物質の発ガンリスク10−5あるいは10−6(10万人あるいは100万人に1人がガンになる確率)や非発ガン性物質では許容摂取量(1日当り許容できる摂取量)に対する比率を曝露基準値とした。 5.3 評価システムの適用事例GERASを用いて重金属類(ヒ素)および有機化合物(トリクロロエチレン:TCE)のリスク評価を行った[18]。これらの化学物質はそれぞれ、人にとって発ガン、および肝障害といった重篤な健康被害を与える代表的な汚染物質である。適用した事例では、それぞれの汚染物質の濃度として、現行の土壌汚染対策法による指定基準値(ヒ素:含有量150 mg/kg、TCE:溶出値0.03 mg/l)を与え、土質は関東ロームとした。曝露シナリオは住宅地とし、土壌の直接摂食、土壌の直接吸入、大気吸入(屋内・屋外)、地下水摂取、農作物摂取および皮膚吸収からの曝露を考慮した。また、曝露期間を生涯70年(小人6年、大人64年)とし、生涯の平均曝露量を算出した。世界保健機構(WHO)では、これらの化学物質の耐容1日摂取量(TDI:ヒ素=2.1 μg/kg/day、TCE=24 μg/kg/day)を定めているが、食品経由など従来考慮していない曝露経路からの曝露も想定されるため、耐容1日摂取量の10 %(ヒ素:0.21 μg/kg/day、TCE:2.4 μg/kg/day)を曝露基準値とした。土壌および地下水のパラメータは、実際の汚染サイトで取得されたものを使用した。図6および図7にヒ素およびトリクロロエチレンの曝露評価の結果を示す。ヒ素の場合では主要経路が土壌の直(34)−ABCDJIHGFE図5 GERASのシステム入力画面とパラメータリスク評価システムGERAS1,2のコンピュータ画面と入力パラメータである。リスク評価には、土壌や地下水のパラメータ、物質輸送に関するパラメータ、曝露経路や曝露ファクターの情報が必要である。

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