Vol.1 No.4 2008
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研究論文:土壌・地下水汚染のリスク評価技術と自主管理手法(駒井ほか)−279 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)を集積した[12]。 4.4 土壌・地下水の基本パラメータの解析地下水の流動特性および汚染物質の移流・分散特性に関して、モデル地域のモニタリングを行い、不飽和土壌および地下水層における透水係数、分散係数などのパラメータを集積した。さらに、複数の化学物質から成る鉱物油については既存のデータが皆無であったため、カラム試験などの室内実験においてガス-油-水の3相の流動パラメータをあらたに取得した[13]。土壌や地下水の内部では、粘土鉱物や微生物の作用により環境汚染物質は吸着・脱着、化学反応、生物分解などの多様な変換を受けている。これらの現象は、リスク評価の結果に大きな影響を与えるため、現場調査および室内試験を通じて分解速度パラメータを収集した[14]。土壌汚染では、国内数カ所の地域を選定して、土壌の物性、表面の吸着特性、環境汚染物質との相互作用に関する調査を行った。また、採取した土壌を化学分析し、粘土鉱物の種類や組成、吸着・脱着特性に関するデータベースを作成した。地下水汚染では、VOCs(揮発性有機化合物)の汚染サイトのモニタリングを長期間行い、主に微生物分解による環境汚染物質の自然減衰に関する各種データを集積した。 4.5 地圏環境情報の整備リスク評価手法およびデータベースの作成と併せて、市街地や産業用地のリスク評価に適用される地圏環境情報を整備した。筆者らは、これまで特定地域の地質・土壌基本調査に基づいて、主に自然的原因による表層土壌評価基本図を作成してきた。これらの評価基本図は、曝露・リスク評価にもきわめて有効に活用されると考えられたため、これまでの調査項目に加えて土壌中の有害化学物質の含有量や溶出量なども調査して、基本図に取り入れた。また、一般的な環境条件においてリスク評価を実施し、重金属類を対象とした曝露量の空間分布を示すリスクマップを作成した[15]。わが国では、リスクマップの作成は初の試みであり、土壌環境リスク管理の基礎資料として十分に活用できると考えられる。さらに、日本全体の様々な地圏環境の情報をGIS上に統合する研究開発を進め、東北大学と共同で「地圏環境インフォマティックス」を開発した[16]。この中には、土壌や地質の各種情報に加えて、全国規模の地下水汚染の状況を示すマップが含まれており、リスク管理に広く活用できる。 5 リスク評価のシステム開発土壌・地下水汚染のリスク評価の要素技術を統合・構成して、「地圏環境リスク評価システム」GERAS(ゲラス)(Geo-environmental Risk Assessment System)を開発した[17]。このシステム開発では、4章で示した多様な要素技術の最適な構成に加えて、曝露モデルの作成やプログラムコーディング、数値解析手法の開発、さらには各要素の統合化および解析結果の可視化などの工学的な研究開発を実施した。5.1 要素技術の統合とシステム開発 要素技術の統合・構成を進めるにあたり、最終的にリスク評価システムを完成させるという観点から導入した構成のプロセスは以下のとおりである。まず、個々の要素技術を適切に組み立てる上での方法論の確立や土壌を起点とした曝露シナリオの設定などに関して、リスク評価手法の開発者としてのリーダーシップが重要であった。その上で個別の研究開発では、事前検討に従ってリスク評価システムを構築するための基礎データの提供と解析作業を実施した。次に、曝露とリスクの評価に必要なデータ類やパラメータを選択し、パラメータ間の相関や最適な組み合わせを検討した。そのため、試験方法や条件の設定を十分に検討し、目的に応じたデータベースを作成した。さらに、要素研究により取得されたデータは、実際の汚染サイトにおけるリスク評価の実施により検証され、補正や修正を加えた後にデフォルト設定とした。例えば、確実なリスク評価を実施するためには新規に取得すべきデータ類も多く、各要素(33)−土壌環境地下水汚染物質GERAS-1概念モデル スクリーニング用 の評価モデルGERAS-2サイトモデル サイト固有の 評価モデルGERAS-3 詳細モデル 浄化効果等を加味 した3次元モデル化学物質大気陸水深層地下水 土壌環境不透水層浸透不飽和層地下水移流・拡散移流・拡散井戸オフサイト(例えば住宅地)蒸発汚染物質オンサイト(例えば工場)屋外作物沈着土壌吸収土壌飛散土壌直接摂食土壌直接吸入ガス吸入皮膚吸収作物移流希釈ガス拡散ガス拡散浸透・拡散間隙水土壌空隙シャワー飲料水曝露土壌直接吸入ガス吸入皮膚吸収地下水浸透・拡散屋内曝露井戸図4 地圏環境リスク評価システム(GERAS)の階層構造本研究の成果物である地圏環境リスク評価システム(GERAS)の3つの階層構造を示している。リスク評価のレベルと用途に応じて、スクリーニングモデル、サイトモデルおよび詳細モデルから構成されている。
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