Vol.1 No.4 2008
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研究論文:土壌・地下水汚染のリスク評価技術と自主管理手法(駒井ほか)−278 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)タ類などに十分な整合性をもたせることが重要であり、そのための研究調整と方法論の統一化をはかった。一方、これらの基礎研究の成果を活用するリスク解析では、曝露・リスク評価を行うためのシナリオや数式の確立、地圏環境における汚染物質の移動を把握するための数値解析手法、地下の地質構造を3次元的に把握するための物理探査などの応用的な研究開発も重要である。これらを「環境リスク」という統一的な指標でもって構成し、それぞれの要素技術を有機的に関連づけることにした。また、リスク評価システムを「製品」として完成させるためには、使用する方法論やデータの妥当性を検証することが必要である。そのため、開発したリスク評価システムをいくつかの汚染現場に適用して、得られた評価結果をフィードバック(図2)するとともに、専門家による技術的な評価結果を反映させた。 4 リスク評価の要素技術と方法論の研究土壌・地下水汚染のリスク評価に関わる要素技術は多岐にわたっている。この中には、表1に示したように地質調査、汚染評価、分析技術、解析技術、モニタリング、およびリスク評価などの要素技術が含まれ、土壌汚染のリスク評価技術を中心とした総合的な研究開発を立案、実施した。 4.1 曝露・リスク評価の方法論の開発本研究では、まず土壌や地下水などの地圏環境におけるハザードを特定し、そのリスクを定量化するための基本的コンセプトを提示した[8]。主要な曝露の経路としては、表層土壌の直接摂取(摂食など)、地下水経由の間接摂取(飲用)、揮散および飛散による大気経由の間接摂取、農作物を経由した間接摂取など、想定されるすべての経路を考慮した(図3)。リスク評価のエンドポイント用語3は、化学物質により異なるが、発ガンリスク(経口、経気道)、非発ガンリスクの両者を想定した。また、曝露のシナリオとして、曝露機会や頻度、曝露ファクター(平均体重、水摂取率、土壌摂取率など)を設定し、わが国のデフォルト値とした。これらのデータは、人の行動パターンや医学的な知見から求めた。さらに曝露評価のモデリングを行い、曝露経路およびエンドポイントごとに曝露量およびリスクの計算式を与えた。この他、環境汚染物質の移動性や反応性を予測するための2次元および3次元の数値解析プログラムを与えた。4.2 化学物質の特性と未規制物質への対応曝露・リスク評価では、化学物質の基本的特性、土壌との相互作用などのデータ類の集積が欠かせない。本評価システムで対象とする化学物質としては、土壌汚染対策法で規定されている重金属等、揮発性有機化合物、農薬のほか、ダイオキシン類、PCB、鉱物油および未規制化学物質(例えば、亜鉛、アンチモン、ホルムアルデヒドなど)も評価できるようにした[9]。これまで約120物質の物性値や環境パラメータ(ヘンリー定数、水-オクタノール分配係数、土壌-水分配係数等)に関する文献や資料を精査し、データベースを作成した。鉱物油に含有する多様の炭化水素やPAHs(多環芳香族炭化水素)については、室内実験において揮発速度、土壌吸着特性および地下水中の移動パラメータをあらたに測定した。さらに、複合的な汚染問題にも対応できるように、評価システムに改良を加えた[10]。 4.3 土壌汚染の調査と分析手法の確立地圏環境のリスク評価では、土壌の特性や表層から地下水に至る地層、3次元的な地質構造、さらには地下水の挙動に関する情報が重要である。表層土壌の特性を調べるため、独自に実施した地質や土質の調査結果により従来の農用地の分類法を修正し、地域ごとに表層土壌基本図を作成した。また、土壌に含まれる環境汚染物質の含有量や溶出量を定量的に得るための試験分析法を確立し、土壌の類型ごとに全含有量、含有量および溶出量のデータベースを作成した[11]。さらに、曝露評価の精度に大きな影響を与える化学物質の存在形態に関して、逐次抽出法の標準分析手法を確立し、各種の土壌や岩石に関するデータを集積した。土壌や地下水中の汚染物質の濃度や分布を明らかにするための現場調査に簡易ボーリングによる低コスト、低環境負荷の汚染調査法を採用し、日本全国の汚染サイトへの適用を容易にした。その結果、従来よりも短時間かつ安価な汚染調査法が確立され、土壌コアの効率的な現場観察や迅速なサンプリングが可能となった。また、油汚染サイトに対して電磁波や比抵抗を用いた物理探査手法を適用し、地層の3次元的な構造や地下水理特性の基礎データ(32)−屋外作物沈着土壌吸収土壌飛散土壌直接摂食土壌直接吸入ガス吸入皮膚吸収作物移流希釈ガス拡散ガス拡散井戸浸透・拡散間隙水土壌空隙シャワー飲料水曝露曝露土壌直接吸入ガス吸入皮膚吸収地下水浸透・拡散屋内図3 リスク評価における曝露シナリオと曝露経路土壌汚染リスク評価における曝露シナリオを概念的に示したものである。曝露経路として、直接摂取、地下水経由の経口摂取、大気経由の吸入曝露、作物経由の摂取など経路設定が必要である。

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