Vol.1 No.4 2008
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研究論文:土壌・地下水汚染のリスク評価技術と自主管理手法(駒井ほか)−277 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)に加えて、企業や自治体における自主対策を含む重層的な取り組み(ガバナンス)の必要性が指摘され、自ら実施するリスク管理がますます重要となっている[2]。実効性の高い環境施策を行うためには、ガバメントとガバナンスの両者を組み合わせた新たな枠組みとすることが肝要であるため、最近では自主的なリスク管理への移行を視野に入れた法改正の検討も行われている[3]。最近の経済産業省の調査によれば、わが国の土壌汚染対策の90 %は自主的な取り組みの中で行われ、事業者や自治体が自らリスク管理をして調査・対策を行うことが多い[4]。このような現状をみると、リスク管理に基づく土壌汚染対策を重点的に推進する必要性が理解できるが、現実にはその枠組みやリスク評価の方法論に関して統一的な考え方は存在していなかった。特に、個々の土地用途ごとに異なる環境や曝露の条件に対応したリスク評価の方法が確立されておらず、現実に居住する人が受ける曝露とリスクの大きさについての科学的な情報が不足していた[5]。このような背景から、本研究では土壌・地下水汚染に適用可能なリスク評価の方法論を確立することを目的として、分野融合型の研究を実施した。上述のように、リスク評価手法の開発については自治体や企業などからの社会的な要請が強く、環境政策や産業環境管理などの行政的な役割への期待も大きい。この研究開発では、リスク評価手法の開発から地質調査、データ取得、数値解析、システム開発、技術の公開・普及までを一貫して実施する総合的な取り組みを行った。特筆すべき点は、これまでの研究で不足していた分野間の融合、各構成要素の統合、さらには製品化や社会システムへの組み込みまでを目指したことである。最終的な目標は、わが国の土壌汚染対策において標準的なリスク評価手法を確立することであり、その基盤となる要素技術やデータベースを開発・公開することにある。また、国際的にもさまざまな土地用途の特性を考慮したリスク評価システムは研究例がなく[6]、研究成果を広く世界に発信する意義が大きい。特に、アジア諸国の土壌・地下水汚染は深刻度を増しており、研究成果を普及して環境リスクを軽減・回避できれば国際的な貢献となる。 3 本研究の構成学的な意義と展開本研究における構成学的な意義とその展開を図2に示す。基本的な要素技術を集積するだけではなく、要素間の関連性を重視するシナリオを採用し、リスク評価システムとしての完成を目指した。以下、さまざまな要素技術を統合するため、本研究開発で採用した基本シナリオや研究目標を達成するために導入した構成学的なプロセスについて述べる。これまでの環境関連の法制度では、一律に基準値や指定値などを与える規制が多く行われており、ガバメントの考え方を基本としている。一方、最近の環境問題では、トップダウン型の規制では不十分であることが認識されて、企業や自治体の自主的な取り組みを基本とするガバナンスへと転換しつつある(図1)。ガバナンスの考え方は、多様な利害関係者の参加を前提としているので、近未来の環境リスク管理や持続的発展可能な産業構造を考える上できわめて有効な手段といえる[7]。本研究では、環境施策におけるパラダイムの転換を目的に、統一的な指標による要素技術の統合化や双方向のコミュニケーションなど従来の研究とは異なるシナリオを採用した。地圏環境を取り扱う研究では、表1に示すような地質学や環境科学などの基礎科学の知見が不可欠である。特に、わが国に特有な土壌や地質の構造や地下水の流動特性、有害化学物質の化学形態や存在形態、曝露解析に必要な各種パラメータなどは、リスク評価を行う上で欠かせないものである。このような要素研究は相互補完的な特徴を有しているが、共通の尺度による研究分野の融合が必要である。具体的には、各研究分野で使用するデータ、パラメー(31)−地質・水文調査(環境地質学)物理探査・観測(地球科学) 化学・生物分析(環境化学)データの提供逆解析企業、自治体等の使用者リスク評価手法(リスク科学)数値解析手法(物理・数学) 評価データのフィードバック土壌・地下水汚染リスク評価システム調査・分析手法の確立リスク評価の方法論基本パラメータの解析 地圏環境情報の整備化学分析生物・生態物理探査モニタリング地質調査地下水調査数値解析システム化リスク解析曝露解析計算科学(流体工学、数値解析学)移流・分散解析手法環境汚染に関する諸データシステム工学システム化・可視化化学物質パラメータ地球科学(物質循環、物理探査)環境中物質移行パラメータ地質構造データベース土壌・地下水パラメータ曝露シナリオ、曝露ファクターリスク科学(リスク解析、情報科学)曝露・リスク解析手法土壌-生体移行パラメータ環境科学(分析化学、地圏微生物)環境化学(土壌物理、生物地球化学)環境地質学(地圏情報、水文学)安全科学(薬学、毒性学)地質学(地質情報、都市地質)物理化学(平衡論、速度論)図2 本研究開発における構成学的な特徴土壌汚染リスク評価システムの研究開発に必要な要素技術と統合化のシナリオを示しており、システム開発およびデータ構築に伴うスパイラルの構成が特徴的である。表1 本研究に関する学術分野と要素技術
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