Vol.1 No.4 2008
28/87
研究論文:粘土膜の開発(蛯名)−271 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)ロジェクトに採択され、要素試験、実プラント試験の評価結果を改善に生かすフィードバック体制が確立し、安全性・信頼性に関する基礎データが得られ、2007年高温条件下で用いられるアスベスト代替ガスケット製品を実用化した[12]-[14]。同年9月に大阪に専用工場が竣工し、2008年7月現在全国約40箇所の事業所で用いられている。このガスケットの導入でアスベストフリーを実現した事業所が生まれた。そのような成果が評価され、開発したガスケット製品は2007年第2回ものづくり日本大賞優秀賞を受賞した。この実用化が短期間で達成された理由は、第一に従来から用いられてきた膨張黒鉛製ガスケットの短所である表面からの粉落ちや焼付きといった問題を、粘土膜のシーズ技術で解決できるのではないかというJ社社長の的確な発案である。他の理由としては、第二にスムーズな技術移転、第三にJ社の技術者の地道な努力、第四にGICによって得られたユーザーの協力と英断、第五にJ社の迅速な経営判断と全国津々浦々に渡る技術営業サービスの実践、第六にNEDO、産総研との緊密なネットワーク、第七に単一企業で生産が可能であったこと、などがあげられる。また外部要因として、2008年までのアスベスト製品の全廃目標があり、市場が代替製品を必要としていたことがあげられる。現在の開発品はアスベストガスケット製品の約7割を代替可能であり、さらに広範な性能評価試験を行うと同時に、長期信頼性向上などに取り組み、化学プラント産業用に加え、自動車産業用、電力産業用へと展開していく予定である。同時にさらに高温対応の製品等の開発に取り組んでいる。この他にも、産総研内部のプロジェクトとして、産総研の特許を実用化するための産総研独自の研究開発プロジェクトを2006年度と2007年度に行っており、また多くの資金提供型共同研究も進行中であり、第二第三の実用化に向けて着実に進んでいる。実用化例を早く作り、この過程で基礎技術、製品化技術を蓄積することも開発を成功させるポイントと考えている。大量生産薄利多売のものは、サプライヤーの生産技術の開発と、ユーザーの製品開発の研究の両者がバランスよく進んでいかなければならないため、市場の形成に少し時間がかかる。一方ガスケットの製品化は単独の民間企業で行うことが可能であったことで、企業連携の形成を待つ必要がなく、短期間で実用化に至った。このような実用化例があると、他の用途に関係する研究者、エンジニア、経営者の実用化意欲が一層高まり、この点においても先行例を作ることが重要と考えている。 5 本格研究における出会いと研究展開ここでは上に述べたような粘土膜の開発過程を通して本格研究における出会いを分析してみる。具体的には、発明の形成過程、本格研究に至る過程等での出会いを類型化する。第1種基礎研究ステージにおいては、人類が粘土膜に出会ってから約70年、筆者が粘土膜の研究を開始してから約5年の時間が経過している。その間、工業製品の種類や素材に対する要求性能が変化したために古いシーズに潜在的な可能性が生まれた。高レベル放射性廃棄物や産業廃棄物の処分場用のバリア層としての基礎研究の過程で粘土膜の製造ノウハウなどの蓄積が行われたが、このシーズ技術はある程度完成され論文や報告書としてまとめられていた。新研究ユニットの設立によって、異なるバックグラウンドを持つ研究者が出会うことになり、マイクロリアクターのシールの問題に直面していた筆者の上司からシール材開発の依頼がされた[3][15]。この出会いのポイントは2つあると考えられる。第一にシーズとニーズのマッチングである。第二に先入観のない提案である。第一の点については図1を用いて少し詳細な説明を試みる。個人あるいはグループAとBの出会いによって発見や発明などのブレークスルーが生まれるために、少なくともAに問題解決方法への渇望があるとよい。具体的にはAは専従度の高い研究開発Ⅰの達成のため、足りない技術開発要素Xを強く要求している。Bは研究開発Ⅱの成果である技術αを有しており、αはXに寄与するものである。αのXへの寄与は100 %に近い場合もあり、50 %程度である場合もある。AとBの出会いのときにBからAのαに関する技術紹介が行われる。特にαのXの寄与率が高くない場合でも、強い渇望が積極的な可能性探求をしてαのXへの寄与の可能性を見出す。αのXへの寄与率が高い場合は、研究開発Ⅰにかける時間と研究資源(人、予算、設備)が揃っていることから、短期間で発見・発明に至る。αのXの寄与率が高くない場合は、AからのBフィードバックなどでさらにαを展開し、Xの寄与率が高いものとする必要がある。この場合AとBの協力の合意が必要になる。協力は共同研究Ⅲという形で行われる場合もある。この段(25)−図1 本格研究における出会いと相互の関係A応用展開の渇望B研究開発Ⅱ問題解決方法の渇望研究開発Ⅰ技術開発要素X①紹介②提案③協力の合意技術α研究開発Ⅲ
元のページ