Vol.1 No.4 2008
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研究論文:粘土膜の開発(蛯名)−268 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)2 粘土膜の発明とコンセプトの確立2.1 粘土膜のガスバリア性の発見筆者はもともとは廃棄物処分場における人工バリアの評価をする目的で、粘土圧密体を研究していた[7]。粘土圧密体の水の透過は非常に遅いものであり、測定は長時間を必要とし、最長500日間の測定を行ったことがある。このような測定を短時間で行うための工夫として、当時16 mmほどあった圧密体を薄くすることを考えた。薄いほど測定時間は短くなったが、同時に膜の均一性が測定精度に大きな影響を及ぼすことになった。厚みの均一性を達成するために、当時はろ紙上への膜の試作を繰り返した。つまりこの段階では水バリアという特性の面から粘土膜の作りこみを行っていた。この知見についてはプロジェクトの成果報告などを行っていたが、多くの方の興味を引くには至らなかった。2001年に産総研東北センターが発足し、2004年に研究ユニット「コンパクト化学プロセス研究センター」が設立されてからまもなく、この膜を上司に見せたところ、水素ガスを用いるマイクロリアクターのシール材として使える、との意見をもらい、ガスバリア材としての研究を始めた。自立のセラミックスフィルムは空気分子が通過可能な小さなクラックが多く存在する。したがって高いガスバリア性を期待することはできず、セラミックス系フィルムでガスバリアを実現という発想には至らない。確かに粘土膜は水に対しては高いバリア性を発現するが、それは粘土が吸水膨張してクラックを埋め、バリア性を発現するためである。したがってやはりセラミックスフィルムを作る人間だけではガスバリア材としての利用を思いつかなかったと思われる。粘土膜がガスバリア材に使えるのではないかという発想が生まれたのは、外観がテフロンテープというシール材に似ていることから得られた発想であると考えられる。テフロンテープは実際にマイクロリアクターのシールにも用いられるが、250 ℃程度までしか使用できない。そこでテフロンテープ的な強さと柔らかさを実現するための改良を行うとともに、気泡などに起因する空隙を少なくするなどの工夫がなされた。まず素材が存在し、見る、触るなど人間の五感を通して、用途展開のアイディアが生まれたと考えられる。2.2 粘土膜のガスバリア性能の実証当初は粘土膜の強度が不足であったが、上司とのディスカッションに基づき改良を繰り返し、数ヶ月でマイクロリアクターのシール材として使用可能なものができた。このマイクロリアクター実験においては300 ℃程度の温度条件下で水素をシールしなければならず、従来のシール材では適当なものが見つからなかった。評価をしてもらったところ、シール性は良好との結果を得た。原理的には粘土は水素を透過しないと考えられたが、バインダーの添加によりその水素シール性が失われないかどうか不明であった。後に迷路モデル[8]によって、粘土が大過剰であれば高いガスバリア性を発揮する、具体的には粘土重量比が94 %であれば、バインダー成分の1000倍のガスバリア性を発揮することを導びき、原理的にも実験で得られたハイバリア性が支持され、粘土膜の基本コンセプトを確立させた[9]。3 粘土膜応用開発3.1 ニーズの分析2004年8月11日に粘土膜のプレスリリースを行った。報道のポイントは最高1000 ℃という耐熱性と検出限界値未満というガスバリア性である。また積極的に展示会などに出展を行った。さらに専門誌への簡単な紹介記事なども多く執筆した。短期間での集中的な広報活動の結果、延べ300以上の問い合わせがあり、内約150社と技術相談をした。その結果、この材料が非常に多くの用途に使える可能性を持った材料であることが分かった。用途としては、耐熱柔軟フィルム、ディスプレー用フィルム[10][11]、黒鉛複合材、電磁波遮蔽材、コンデンサー用シール、包装材料(ハイバリア紙容器、ハイバリア軟包材)、水素シール材等が主なものである。3.2 知的財産強化出願した特許の公開、学会発表や専門誌などでの印刷物での公開時期をにらんで、応用特許の出願など知的財産部門、産総研イノベーションズと研究ユニットとの特許の強化について検討する会議に基づく特許群の強化が図られた。具体的には、先行技術調査などを2004年8月、同12月、2005年2月に行っており、知財戦略強化チーム(特許強化会議よりも少人数で、特定の知的財産に対しての強化を図るための組織)による集中的知財強化を2004年12月、2005年6月、2006年3月、同5月、同9月に行っている。産総研の内部で伸ばすことが適当な分野および研究開発内容、企業との共同研究で伸ばしていくべき分野および研究開発内容の選択を行った。具体的には、材料特許、製造特許の一部、応用特許の中で産総研内部のマッチングで伸ばせる部分を集中的に出願することにした。ここで出願された応用特許としては、フレキシブル基板、太陽電池、燃料電池用材料などがあげられる。これらは産総研内部で粘土膜を提供し、予備試験でよい結果が得られた案件である。もちろん検討した結果うまくいかず出願に至らなかった例もある。この時期までに約40件の特許出願を行った。知的財産の十分な質・量の確保を実行し、本技術に関する産総研の単独特許出願は2003年から始まり(22)−

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