Vol.1 No.4 2008
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研究論文−267 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)1 粘土を用いた膜これまでガスバリアフィルムは、主にプラスチックをベースとして製造されてきた。そのガスバリア性は完璧なものとはいえず、耐熱性及びガスバリア性能の向上のため、粘土などがフィラーとして少量添加された「粘土プラスチックナノコンポジット材料」が研究されてきた。この材料は一般的に少量の粘土の添加で明確なガスバリア性の向上が得られる。そこで、従来フィラーとして少量使われてきた粘土を添加物としてではなく、主材料とした緻密な膜にすると、飛躍的に耐熱性およびガスバリア性が向上するのではないかとの逆転の発想に基づき、2003年に粘土からなる耐熱性ガスバリア膜の開発を始めた[1]-[3]。粘土の結晶は厚み約1 nm(100万分の1 mm)の薄い板状のものである。この薄い結晶を何万枚も緻密に重ね合わせて取り扱い可能な厚みの膜に成形したものが、「クレーストClaist®」と名づけた粘土膜である。クレーストは、高温条件下で、酸素や水素ガスに対する高いガスバリア性を有して曲げることができる。作り方はキャスト法と呼ばれ、粘土の分散液をトレーなどの中で乾燥させ、乾燥後トレーの底から剥がすという簡単な方法である。粘土の製膜性を調べるため、種々の粘土を用いた成膜実験を行った。その結果、水に分散しやすく、水をゲル化させやすい「スメクタイト」と呼ばれる粘土が製膜性に優れていることが分かった[4]。スメクタイトは天然にはベントナイトと呼ばれる鉱物に30から70 %程度含まれている。ベントナイトはそのままで鋳物砂の粘結材、建設現場における掘削泥水、ダムや廃棄物処分場の遮水層などとして用いられている。国内の産出量は約45万トン/年であり、バージンPETの国内企業生産量にほぼ等しい。このうちの半分以上が東北地方の鉱山から産出している。ベントナイトからスメクタイトの分離・精製は、水に分散し、沈降しない分散液部分を過熱乾燥する、水簸という方法で行われる。粘土が膜になるということは粘土を対象に研究を行っている者にとっては新しい知見ではない。粘土の結晶構造をエックス線回折法によって解析する場合、ガラス板上に粘土分散液をキャストした配向試料を用いることは一般的な手法である[5]。粘土膜をガラス板から剥離することはできず自立膜用語1にはならないが、マサチューセッツ工科大学のアーネスト・ハウザー教授は1938年に粘土による自立膜を報告している[6]。想定される用途としては包装材料など、つまり紙の代替のようなものであった。このように粘土の膜材料としての潜在的な可能性が示されていたが、どうやらほとんど製品化には至らなかったようである。それは競合材料としての紙の性能と経済性に対して、優位性を認めるような用途が見つからなかったためと推察する。それから70年を経た今日、ガス遮断を要求する製品は非常に多くなった。食品の包装や電気製品などが代表的なものである。さらにロケット、航空機、水素自動車、燃料電池車などのように、高圧で水素を保存し、しかも移動体に載せるために軽量なシステムにしなければならないという特殊なニーズが出てきた。揮発性有機化合物ガス低減のために石油化学プラントでは少しでもリークを低減しなければならない。これらの新しいニーズに対して、粘土を使った新材料で対応することとなった。研究論文粘土を主成分にした膜の本格研究事例を紹介する。粘土は環境にやさしく、国内でも豊富に採れる資源である。これを膜化することにより耐熱ガスバリア材料として利用することができ、持続可能な産業に寄与できると期待される。粘土膜の発明から実用化にいたる過程の技術開発、広報、知的財産、技術移転の方法を述べるとともに、人あるいはグループの出会いが開発にどのように生かされてきたか分析する。さらに統合開発型イノベーションモデルによってコンソーシアムの有効性を議論する。粘土膜の開発ー 出会いの側面から見た本格研究シナリオ ー蛯名 武雄産業技術総合研究所 コンパクト化学プロセス研究センター 〒983-8551 仙台市宮城野区苦竹4-2-1 産総研東北センター (21)−

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