Vol.1 No.4 2008
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研究論文:ホタルの光の基礎研究から製品化研究へ(近江谷ほか)−266 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)化学研究所基礎特別科学研究員、日本学術振興会未来開拓研究員(奈良先端科学技術大学院大学)を経て2001年産業技術総合研究所入所。2007年内閣府総合科学技術会議事務局に出向。本論文ではルシフェラーゼおよび測定システムの構築と最適化を主に担当した。査読者との議論 議論1 製品化を目指すための特許構築について質問・コメント(栗山 博)「3.第2種基礎研究から製品化を目指すための特許構築」で東大物性研の秋山准教授と協力して、「光を無駄にすることなく発光色を分割・定量する方法を開発した」とありますが、その内容は第2種基礎研究の中身として重要な点に思われます。具体的に記述していただけないでしょうか。回答(近江谷 克裕)わかりにくい表現でしたので、図3を加え、さらに「新しく開発した技術は、あらかじめ各ルシフェラーゼをフィルターの非存在下、及び複数の光学フィルター存在下でそれぞれ測定、ルシフェラーゼごとに各フィルターを用いた際の透過係数を決定しておき、試料に対する複数のフィルターの測定値から透過係数をもとに各ルシフェラーゼ量を算出する方式である(図3)。」と追記いたしました。議論2 マルチ遺伝子発現検出技術への構築について質問・コメント(小林 直人)著者らがマルチ遺伝子発現検出キット実現と言う目標に向けて、そのためのシナリオを明確に描き、それに沿って研究開発を実施して来たことは極めてよく理解できます。その意味で、世界初の3遺伝子発現の同時検出という成果の実用化への戦略的取り組みがよく分かり、本論文は大きな価値があると考えられます。その一方で、肝心の本研究の中心となった「生物発光現象を利用したマルチ遺伝子発現検出技術」の構成学的記述が不足しているように見受けられます。本技術の詳細については、すでに他の論文で発表してあるでしょうが、それらからどのようにしてマルチ遺伝子発現検出技術へと構築できたのかの詳細を述べて頂ければと思います。回答(近江谷 克裕)我々の開発したマルチ遺伝子発現検出キットは、複数の遺伝子発現を同時に解析するシステムです。キットは、転写調節領域を挿入可能にした3色のルシフェラーゼ遺伝子の各々のベクターによって構成されます。使用者は、何らかの方法で研究対象となる遺伝子の転写調節領域を取り出し、これをキットのベクターの中に挿入します。これを細胞に導入した場合、例えばここに化学物質を加えると、その刺激によって細胞内では対象となる遺伝子の発現が調整され、合成されるルシフェラーゼの量は変化します。細胞を破砕し、これに測定条件が最適化されたルシフェリン溶液を加え、それぞれの色の発光量を測定、遺伝子の発現量の変化を評価するわけです。我々の特許がカバーするのは、3色で3つの遺伝子発現を解析するコンセプトと3色のルシフェラーゼです。最適化されたルシフェリン溶液は企業の特許がカバーすることになっています。このようなマルチ遺伝子発現検出技術の技術的構成方法を、4章を補強する形で追記いたしました。議論3 光計測技術の改善点について質問・コメント(小林 直人)本手法の光計測技術的側面についてお伺いします。光計測技術としては光学フィルターを備えたルミノメーターを利用しているとのこと(20)−ですが、その測定感度や測定範囲、SN性能等も含めて技術的にはすでに完成されたと考えてよいでしょうか、特に今後の光計測技術の改善点等があれば記載して頂ければよいと考えられます。回答(近江谷 克裕)光計測技術の活用が我々の技術の普及には必須であり、その観点で次のとおり追記いたしました。「また、今後、化学物質の毒性評価などでは、多サンプルの計測、計測データ間の互換性も重要となることから、我々は新しい光計測装置の開発を“高感度化”と“光計測の標準化”という観点で進めている。前者は先端ガラス集光技術が、後者は光校正技術が重要であり、新規光計測技術の活用はマルチ遺伝子発現検出キットの普及には大変重要である。」議論4 動物実験の代替と将来的な展望について質問・コメント(小林 直人)本研究成果は実用化において大きな意義があったと考えられますが、今後本手法が実際に動物実験を代替できるのかどうかという問題や、細胞内のダイナミクスを観察するのに本手法による観察が生体内反応をそのまま表現していると考えてよいのか等について、将来的展望も含めて説明して頂けるとよいと思います。回答(近江谷 克裕)光によって生体情報を得る技術は、当然のことながら決して万能ではありません。それ以上に光を読み取ることを間違えれば間違った結論を導くことになります。生命情報を光を通じて引き出した場合、当然のことのように、我々の得る情報は光をもたらす影であるので、上手に光を計測しなければ有用な情報を手に入れることはできません。そのような観点で本文にも追記をしました。「また、将来的な展望の1つは動物実験の代替えであり、光技術をうまく活用すれば細胞レベルから得られる生体情報の信頼度を向上させることで、動物実験の代替え法に発展できればと考えています。さらには、細胞内のダイナミズムを光を通じてあらわすことが可能になり、今までわからなかった生命の側面を垣間見ることができ、「健康を光で支える」ための情報収集に役立ち、新たな知を生み出すことになると考えられます。」この点も本文に書き加えました。議論5 精度の向上について質問・コメント(小林 直人)「生物発光現象を利用して同時に3つの遺伝子の発現を検出する手法」は極めて有効であると理解しましたが、今後精度の向上に向けては3色以上のより多色化が必須でしょうか。それとも基本的な手法としては3色で十分と考えられるのでしょうか?回答(近江谷 克裕)精度の向上という意味では3色以上の光で同時に解析することも重要と思います。しかしながら、ホタルの光で作れる光は緑から赤色の発光ピーク540-430 nmの光です。人間の目なら微妙な色の違いを認識できるのですが、カメラを通じてみる微弱な光では限界があります。しかも生物発光の光はブロードな光です。よって我々が用いた検出法では30 nm以上離れたブロードな光でのみ対応可能であり、よって、現時点では3色が限界と考えられます。更なる第2種基礎研究の必要性はまさにこの点であり、計測系の進歩が次の可能性を広げます。また、3色以上の遺伝子の発現解析では細胞への遺伝子の導入法も課題となります。これもまた重要な課題となります。よって、第2種基礎研究は更なる第2種基礎研究を生み出すことになると思います。

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