Vol.1 No.4 2008
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研究論文:ホタルの光の基礎研究から製品化研究へ(近江谷ほか)−264 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)1)本当にコンセプトは正しいのか?→当初正しいと思っても、アイディア倒れは往々にある。我々を含めて多くの研究者が経験しているかもしれない(ただし、公表されないのでわからない)。第2種基礎研究の重要性はここにある。我々自身は、論文を探ることもあったが、多くのセミナーや研究討議の場を増やすことで、多くの研究者の持つ情報収集に努めた。これは、それまでの研究者としての人脈が生きるものであり、その時代の最高の「知・技術」を知ることによって、コンセプトを実用化する方法である。大事なことは自らの発想で最高の知を生み出すことではなく、最高の知を活用することにより最適な(あるいはより適切な)知を生み出すことである。また、分野の違いを超えることも重要である。我々のキットでは3色ルシフェラーゼの混じった光、発光スペクトルが得られるため、これから個々の光を定量する方法を生み出す必要がある。これは、物理の領域の研究者なら解決可能な問題ではあったが、我々が悩んでも解決しない問題でもある。分野融合が第2種基礎研究推進のキーであろう。2)企業が本当に製品化できるのか?→企業サイドが魅力を感じるコンセプトと成果、企業サイドが安心して使える特許、そして企業サイドが予感できるユーザーの存在が重要であり、それを満足できれば、技術力のある企業により製品化は達成される。その場合、相手企業サイドの研究者だけを相手にするのではなく、後ろにいる企業の知財部、法務部、営業部、そして当然、経営者らを納得させる必要がある。従来技術の差別化と優位性(技術、コスト、ユーザー層など)および技術の正当性を明確に示せれば良く、これ自体が第2種基礎研究の成果にあたる。ただし、研究者サイドは他の企業との製品化の道を閉ざすべきでなく、特許は単独出願を心掛け、また、契約書に則った冷静な判断と決断が必要であろう。3)コンセプトは社会に受け入れられるか?→研究者サイドは2つの点を実践せねばならない。第一に、企業サイドと連携して情報発信に努める。企業主催のセミナーの講演や総説等の執筆を行うことが重要であろう。これには節度が求められている点を忘れてはいけない。第二に第1種基礎研究に回帰、自ら生み出した技術を最大限活用した知を生み出さなければならない点である。これらによって技術の価値を高め、社会的に認知されなければならない。よって、これは終わりのない作業であり、シナリオには完結がないはずである。図5はこれらをまとめたものである。第1種基礎研究の第2種基礎研究へと展開、具体的に企業と製品化する過程で、再び第1種基礎研究に回帰することが重要であり、各々のステップの中で、研究者間の、さらには企業との双方的な連携が重要であろう。6 夢を現実にする戦いのために光を通じて生命情報を引き出す。当然のことのように、我々の得る情報は光がもたらす影であるが、上手に光で情報を引き出せば有用な情報を手に入れることが可能である。そのような観点で「健康を光で支える、光で守る」技術の開発を夢見ている。マルチ遺伝子発現検出キットの実用化は1つステップであり、生物発光の持つ光の多様性によって信頼度の高い生体情報を得ることが可能になった。これによって、たとえば高機能簡易型有害性評価手法などに応用、細胞レベルから得られる生体情報の信頼度を向上させることで動物実験の代替え法に発展できればと考えている。これにより「健康を光で守る」技術に結実させることが可能であろう。また、生体情報を同時に複数見ることによって、細胞内のダイナミズムを、光を通じてあらわすことが可能になり、今までわからなかった生命の側面を垣間見ることができ、「健康を光で支える」ための情報収集に役立ち、新たな知を生み出すことになろう。前者は新たな製品を生み出すための第2種基礎研究への回帰であり、企業との連携、共生がテーマである。後者は第1種基礎研究への回帰であり、自らの知的好奇心との戦いであろう。ただし、これらは平面的な研究の回転の輪ではなく、立体的な回転の輪になろう。決して始点に回帰することのない戦いを続けなくてはいけないはずである。謝辞本マルチ遺伝子発現検出キットの開発の第2種基礎研究は、セルエンジニアリング研究部門セルダイナミクス研究グループスタッフの皆さんによって達成されたものである。製品化は東洋ビーネット株式会社:龍福正行氏、鈴木知恵(18)−図5 筆者らの考える第1種基礎研究、第2種基礎研究そして製品化研究の永続性。第1種基礎研究から第2種基礎研究へと展開する場合、第2種基礎研究から第1種基礎研究への回帰が重要。また具体的に企業と製品化する第2種基礎研究から製品化研究へと展開する場合、研究成果を形にするため、時には第2種基礎研究への回帰することが重要。さらに製品化された場合でも研究は終わることがなく、第1種基礎研究へと回帰、但し新たな位置の基礎研究に回帰しなければならない。企業と共生(製品化研究)“社会的還元”もの作り研究オリジナル研究“知的好奇心“(第1種基礎研究)(第2種基礎研究)“社会的契約”橋渡し研究夢「健康を光で支える、光で守る」技術研究成果を形に基礎への回帰研究連携研究成果を研究現場へ
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