Vol.1 No.4 2008
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研究論文:ホタルの光の基礎研究から製品化研究へ(近江谷ほか)−263 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)我々の開発したマルチ遺伝子発現検出キットは複数の遺伝子発現を同時に解析するシステムである。キットは転写調節領域を挿入可能にした3色のルシフェラーゼ遺伝子の各々のベクターによって構成される。使用者は、何らかの方法で計測対象となる遺伝子の転写調節領域を取り出し、これをキットのベクターの中に挿入する。この挿入された遺伝子群を細胞や動植物の個体の中に、化学的に、あるいは電気的に導入する。例えば、細胞に導入した場合、ここに化学物質を加えると、その刺激によって細胞内では対象となる遺伝子の発現が調整され、合成されるルシフェラーゼの量は変化する。細胞を破砕し、これに測定条件が最適化されたルシフェリン溶液を加え、それぞれの色の発光量を測定、遺伝子の発現量の変化を評価するのである。我々の特許がカバーするのは3色で3つの遺伝子発現を解析するコンセプトと3色のルシフェラーゼである。最適化されたルシフェリン溶液は企業の特許がカバーする。図4に測定したモデル実験の結果を示す[6]。モデル実験では哺乳類細胞に存在する時計遺伝子Bmal1プロモータ配列内の転写活性因子結合部位(RORE配列)とその周辺配列の役割について検討した。Bmal1プロモータ配列中には遺伝子転写活性因子RORα4 が結合できる配列としてRORE配列が1つ及び類似した配列が2か所存在、Bmal1プロモータ配列と単独のRORE配列の役割の比較検討を試みた(図4A)。そこで赤色ルシフェラーゼにはRORE配列とその配列の役割をサポートできるSV40配列を、橙色ルシフェラーゼにはRORE配列を含むプロモータ配列全体を、そして緑色ルシフェラーゼにはコントロールとなるSV40配列を、それぞれ配置した遺伝子ベクターを作り、細胞内に遺伝子導入した(図4B上)。転写活性因子RORα4 を細胞内に加えた場合、RORα4 量に依存的にBmal1プロモータは活性化し遺伝子の発現が促進されるのに対して、RORE配列の転写活性を表す赤色ルシフェラーゼの発光量は増加せず、充分に遺伝子発現が促進されない(図4B)。つまり、予想されてはいたが、RORE配列の類似配列にも全体の転写を制御する大きな役割を担っていることが明らかになった。このように、マルチ遺伝子発現解析システムは従来難しかった3つの遺伝子の遺伝子発現情報を同時に得ることを可能にした。また、生きた細胞において細胞内で複数の遺伝子発現をほぼ同時に長時間解析することにも世界で初めて成功した[9]。その応用範囲は我々の検証した体内時計の解析に留まることなく、細胞生物学、薬理学、分子生理学など大いに拡がっていくものと思われる。本研究成果であるマルチ遺伝子発現検出キットによって、3つ以上の遺伝子の応答性の違いを比較できるため、例えば、動物実験の代替法として化学物質の毒性を評価する場合や薬剤スクリーニング系として薬効を評価する場合など、信頼度の高い生体情報を得ることができる。現在、NEDO「高機能簡易型有害性評価手法の開発/培養細胞を用いた有害性評価手法の開発/高機能毒性予測試験法基盤技術の開発」にて、毒性評価マルチカラーレポータ細胞を構築し、技術の普及を目指している。また、今後、化学物質の毒性評価などでは、多サンプルを計測し、計測データ間の互換性も重要となることから、我々は新しい光計測装置の開発を「高感度化」と「光計測の標準化」という観点で進めている。前者は先端ガラス集光技術が、後者は光校正技術が重要であり、新規光計測技術の活用はマルチ遺伝子発現検出キットの普及には大変重要である。5 製品化のシナリオに決して終わりはないこれまでにマルチ遺伝子発現検出キットの基本コンセプト、つまり「発光色の異なるルシフェラーゼによる3遺伝子-1基質のレポータアッセイ」は実用化、最終的に製品化され、シナリオ通りに進んでいるが、我々のシナリオはなお道半ばにあり、達成されてはいない。これまでの点を含めシナリオを達成する上で3つの課題と我々なりの解答がある。1)本当にコンセプトは正しいのか?これは、第2種基礎研究の研究を通じて解決する、2)企業が本当に製品化できるのか?これは、実現可能な企業と対話の中で解決する、3)コンセプトは社会に受け入れられるか?この答えは「努力」、研究者、企業ともにアトラクティブな情報を発信する、ことがそれぞれ肝要であろう。具体的には、(17)−図4 マルチ遺伝子発現キットで解析した遺伝子発現の解析例。A)哺乳類細胞にある時計遺伝子Bmal1プロモータ配列内には遺伝子転写活性因子RORα4 が結合し発現量を変化させる転写活性因子結合部位(RORE配列)が1箇所、その類似配列が2か所存在する。RORE配列単独を抜き出しコントロールプロモータSV40配列に挿入することで、RORE配列の遺伝子転写活性を評価できる。B) 赤色ルシフェラーゼにはRORE配列とその配列の役割をサポートできるSV40配列を、橙色ルシフェラーゼにはRORE配列を含むプロモータ配列全体を、そして緑色ルシフェラーゼにはコントロールとなるSV40配列を、それぞれ配置した遺伝子ベクターをつくり、細胞内に遺伝子導入、転写活性因子RORα4 を細胞内に加えた場合、RORα4 量に依存的にBmal1の発現が促進されるのに対して、RORE配列のみの場合、充分に遺伝子発現が促進されない。+転写活性因子RORα4RORE?SV40RORα4(ng)相対活性(倍)橙赤緑SV40RORE?RORERORERORESV40?05102550751234560プロモーターBmal1プロモーターBmal1AB
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