Vol.1 No.4 2008
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研究論文:ホタルの光の基礎研究から製品化研究へ(近江谷ほか)−261 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)し新しい技術を導入するより、外国の雑誌等に掲載された技術を導入する傾向が多いように思える。この点を注意するべきであり、新しいバイオ技術を生み出した者は、技術の素晴らしさを多くのチャンネルを使って発信するべきである。つまり特許でスタートする第2種基礎研究、実用化研究を行うだけでは真の製品化には至らず、アフターケアをする一連の流れが重要である。何を持ってアフターケアとするのか、1つの答えは、研究者自らが生み出した技術をもとに第1種基礎研究で堅実な成果を上げることであろう。さて、我々の目指した細胞内の複数種生体分子の標識技術は、細胞内で起きている複数の遺伝子発現をモニターするものである。細胞内では外的刺激に対して速やかに、あるいはゆっくりと応答し、複数の遺伝子発現が調節される結果、各種のタンパク質が作られる。例えば、環境ホルモンが細胞内に到達すれば、細胞はそれに応答して、女性ホルモンといわれる物質を生産するのである。そこで特定遺伝子の発現量を検出する手段としてホタル発光酵素(ルシフェラーゼ)を用いたレポータアッセイが製品化されていたのである。レポータアッセイでは遺伝子の発現を調節する遺伝子配列をホタルルシフェラーゼ上流に挿入、細胞導入する。もし細胞内で遺伝子の発現が誘導されれば、それに応じてルシフェラーゼが合成される。ルシフェラーゼにルシフェリンを加えれば発光するので、発光量で遺伝子発現量を評価できる。この手法はバイオ・メディカル領域で活用され、たとえば創薬分野においての薬剤スクリーニングや環境分野における化学物質評価(環境省では公定法として認めている)として、市場に定着しており、02年の段階でも国内市場5億円、世界的には200億円産業であった。では、この分野で、新たに企業が製品化に動く可能性はあるのであろうか? 02年まで、市場で支持されていたレポータアッセイはP社の販売するデュアルレポータである。この方法は2遺伝子-2基質による2ステップの測定法であり、米国で成立した特許を持つP社が、ほぼ独占的な状態にあった。よって、この独占状態を打破したい企業にとっては、レポータアッセイに関わるシーズの探索が重要であった。また、ユーザーサイドは2つの遺伝子の発現しか評価できない点、また、2基質2ステップというコストと工程に関する不満はあった。また、レポータアッセイがさらに汎用性の広い手法であるなら、使ってみたいという潜在的なユーザーの存在もあった。ここでレポータアッセイでの明確な目標設定が可能になった。我々は発光色の多様性を活用した「3遺伝子-1基質による1ステップレポータアッセイ」の開発を目指した。3 第2種基礎研究から製品化を目指すための特許構築ホタルの発する光はホタルルシフェリンの酸化をホタルルシフェラーゼが触媒する酵素反応である。我々が着目した甲虫の発光システムのユニークな点は、発光甲虫はホタル科、ヒカリコメツキ科、ホタルモドキ科、イリオモテボタル科があり、同じルシフェリンを使っていながら、少しずつ異なる発光色を持つ点、さらに、このルシフェリン・ルシフェラーゼ反応が反応環境のpHに連動して発光色が変化する場合と変化しない場合がある点である。我々はpH変化に影響を受けないが異なる色の光を持つルシフェラーゼを用いて複数の遺伝子発現を検出しようと考えた。既に、南米産の鉄道虫(頭部の発光色は橙色から真紅色まで、腹側部は緑色から黄緑色と多彩な発光色の甲虫)から赤色と緑色の光を発するルシフェラーゼ遺伝子を取り出し、大腸菌レベルでこのルシフェラーゼを発現させることに、さらにはこれらの遺伝子情報を用いて、オレンジ色の発光を生み出すことに成功していた[3][4]。しかしながら、2002年にマルチ遺伝子発現検出キットの実用化を目指した段階では、哺乳類細胞でルシフェラーゼを安定に発現することに成功していなかった。つまり、コンセプトとして新規のキットのイメージはあったが、特許実施例を書くことはできなかったのである。中島らは鉄道虫ルシフェラーゼの細胞内で合成される際の転写及び翻訳過程の効率の向上がキーであると考え、遺伝子配列の並びの改変等を行い、03年に哺乳類細胞で使えるレベルの酵(15)−図3 3つの発光色を2枚のフィルターで色分割し計測する技術の概略。A)緑、橙、赤色ルシフェラーゼの発光スペクトル群B)3つの発光色が混じり合った場合の発光スペクトル及び用いる2枚のフィルターの光吸収効率C)フィルターなしで全光を測定した場合の光の量をF0D)1枚目のフィルターを透過することで緑色光の大部分は吸収、計測されない光の量をF1E)2枚目のフィルターを透過することで緑、橙色光の大部分は吸収、計測されない光の量をF2F)予め決定した2つの光学フィルター毎の透過係数とF0、F1、F2を演算することで元の各発光量を算出する式。相対発光強度透過率 (%)波長 (nm)ABCDEF400 500 600 7001.00.80.60.40.201.00.80.60.40.20010080604020透過率 (%)波長 (nm)400 500 600 700010080604020相対発光強度F0F0F1F1F2F2=F0F1F2〔 〕GOR〔 〕1 1 1KGO56KOO56KRO56KGO60KOO60KRO60〔 〕
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