Vol.1 No.4 2008
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研究論文:ホタルの光の基礎研究から製品化研究へ(近江谷ほか)−260 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)い発光甲虫であり、地上で最も強い赤色の光を発するルシフェラーゼを発現していた。これらの研究成果は、生物発光システムよりバイオツールを生み出す新しい研究成果へのスポットではあるが、明確にこれらのスポットを結びつけ展開できる方策はなかった。大学の中の研究と教育の挟間の中では、明確に第2種基礎研究を行うことができないのが現状であった。そのような背景のもと、産業技術総合研究所の誕生と同時に、近江谷と中島は産総研で研究を開始することになった。第1種基礎研究というスポットを第2種基礎研究で展開するチャンスが与えられたのである。おぼろげながら、発する光の色に着目したバイオツールの開発がアウトカムとして浮かび、それを21世紀のバイオサイエンスが模索していた生体分子群の動態観察やイメージングに結びつけるという明確な目標が設定できた。2 何を開発するのかゲノムプロジェクトが一段落した21世紀の生命科学では、1つの生体分子を追跡する手法に限界があることが理解されていた。また、これまでの延長線の計測装置の開発だけではバイオサイエンスの革新が行われないことも認識されていた。その背景の元、2002年、経済産業省、NEDOが母体となり「細胞内ネットワークのダイナミズム解析技術開発」プロジェクトが始動した。本プロジェクトでは生体組織の構築・機能発現の基となる細胞内生体分子のネットワークの時間的・空間的な動態変化を細胞が生きている状態で効率的に計測し、機能解析を可能とする技術の確立を目的とし、複数の生体分子が作り出す情報伝達ネットワークの解明を目標とした。我々は本プロジェクトに複数種生体分子の細胞内識別技術の開発として発光タンパク質の利用を提案して、参加した。我々の研究コンセプトは単純で、従来、ホタルの発光の利用では、その光の量しか注目されていなかったことに対し、ホタルの発光の持つ多色性に注目して、細胞内の複数の情報を発信することを模索した。つまり、従来の生物発光を応用したツールが白黒テレビの延長線であったものを、光の色の違いというキーワードでカラーテレビ化、細胞内の複数種生体分子の動きをリポートしようと考えた。これは90年代の大学における基盤研究で得た研究成果のスポットを結びつける作業でもある。図1は提案において用いたスライドの1枚を修正したものであり、研究コンセプトのストラテジーが描かれている。つまり多種多様な生物発光のルシフェラーゼを活用することである。我々の有力な武器は世界に先駆けて特定した頭が赤色、身体が緑色の光を放つ鉄道虫のルシフェラーゼという第1種基礎研究の成果である。目標設定は従来技術との明確な差別化を狙い、その実用化の絵姿としてマルチ薬剤スクリーニングシステムとした(図2)。最終的に、2006年4月には東洋紡績より「TripLuc」、東洋ビーネット社から「マルチカラールック」として販売され、提案時の出口としてイメージしていたキットを企業から販売することができた。企業が最終的に販売するか否かの判断は、それが世の中のニーズに合致し、ある技術に関して改良なりを欲求するユーザー、及び新たな技術の導入を期待する潜在的なユーザーの存在が重要である。日本人バイオ研究者の一つの習癖だが、自分で判断(14)−図1 研究開発のストラテジーを表したもの。NEDO「細胞内ダイナミズム解析」のヒアリングに用いたスライドの一部を修正。左の写真は上から鉄道虫、ゲンジボタル、ウミホタル、発光クラゲである。我々が目指した細胞機能標識技術は、各種発光生物から得られた発光色の異なるルシフェラーゼ群(発光のための酵素、触媒)をもとに、“3種以上生体分子を識別、細胞機能を阻害しない”ことを可能にする細胞機能標識光分子プローブによるものである。図2 研究開発のアウトカムの一例を表したもの。NEDO「細胞内ダイナミズム解析」のヒアリングに用いたスライドの一部を修正。従来技術では2つの遺伝子転写活性を2段階で2つの試薬を用いて行ったが、開発を目指したマルチレポータアッセイシステムは3つの遺伝子転写活性を1段階で1つの試薬で可能にする方法である。これによって、一度に多くのサンプルの解析を行うことを目指した(ハイスループット解析)。異なる発光色の発光タンパクを取得・特許化(7色の発光を目指す)“3種以上の生体分子を識別、細胞機能を阻害しない”生体分子標識技術開発研究開発のストラテジー鉄道虫ホタルウミホタル発光クラゲ}各種発光生物から得られた異なる光を発するルシフェラーゼ遺伝子を用いて細胞機能を標識( )細胞機能標識光分子プローブ想定する製品化の姿と現状“目標 : より細胞機能に即した創薬システムの開発”従来品:デュアルレポータアッセイ予想開発品:マルチレポータアッセイシステム転写活性量試薬1試薬試薬2転写活性量3つ転写活性を発光色の違いを利用した3つの反応系、1段階操作で測定する方式2つ遺伝子転写活性を2つの反応系、2段階操作で測定する方式
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