Vol.1 No.4 2008
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研究論文−259 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)1 はじめに生物発光はホタルなどの発光生物が生み出す光であり、光る生物の体内には「光の素」と「光の素の発光を触媒する酵素」がある。前者をルシフェリン(Luciferin、光るものの意)、後者をルシフェラーゼ (Luciferase)と呼んでいる。このルシフェリン、ルシフェラーゼの言葉を生み出したのが19世紀のフランス人研究者Duboisであり、発光生物学は先人達の弛まぬ努力が支えてきた学問である。欧米の研究者が中心になって先導してきた学問かというと、そうではなく、日本人の貢献が非常に大きい、例えば第二の熊楠とも言われた神田左京は戦前に「ホタル」という国内外に知られた名著を著し、また横須賀博物館初代館長の羽根田弥太は世界的な発光生物学者、そしてウッズホール研究所の下村脩博士は細胞標識技術を変えた緑色蛍光タンパク質GFPの発見者であるなど、輝かしい足跡をたどることができる[1][2]。1990年代より生物発光を利用したバイオツールが日米欧の企業から製品化されたが、学問分野として生物学、化学、物理学、生化学や工学の幅広い研究領域の上に成り立つ複合領域であるがゆえ、広い分野の知・技・人・資金の結集が進まず、革新的な技術開発は十分に行われてはいなかったのが現状である。これは広い学問分野の上に成り立つ複合分野であるにも関わらず、個々の学問分野間の融合が不十分だった点もあるが、基礎研究における「死の谷」を超える道筋が明確でなかった点に起因する。また、既に生物発光に関わるバイオツールの製品化を達成した企業に対して、明確に製品を差別化し、新たな製品を生み出し、市場に対する明確なメッセージを発する基礎研究の成果も不十分であったためである。一方、生命科学の分野では90年代に始まったゲノムプロジェクトは知・技・人・資金の結集により著しい進展を遂げ、10年も経たずにヒトゲノムの解読に成功した。しかし、この進展は、次なる学問分野の登場を待つというジレンマに陥ることになる。それは、科学者たちは、当初、ゲノムの解読は革新的な基盤情報となり、それによって大きなイノベーションが起きると信じたのであるが、それまで信じていたヒトゲノム上には10万種以上のタンパク情報があり、それは「ヒトと他の動物たち」との明確な違いを示してくれるとの淡い期待があったためである。しかしながら、脊椎動物の直系である脊索動物ナメクジウオの遺伝子はおよそ2万1600種であり、ヒトも2万数千種程度の遺伝子情報しかないという現実である。また、ヒトとサルでさえ遺伝子の違いは2 %以下なのである。では、どうして生物間に違いがあるのか?ヒトは高度に発達したのか?ポストゲノム時代の今、多くの課題が突きつけられている。現在、この答えを見つける手法の1つとして、生命を織りなす生体分子群の動態解析やイメージングが注目され始めた。筆者の1人である近江谷は90年代より生物発光に興味を持ち、科学技術振興機構のさきがけ研究21プロジェクトでホタルの発光色決定機構の研究を行った。その後、静岡大学教育学部において、発光甲虫やウミホタルの発光メカニズムを生物学、生化学の視点から研究を続けた。その結果、ブラジル産の鉄道虫の赤色及び緑色ルシフェラーゼ遺伝子のクローン化に成功、また、ホタルルシフェラーゼ中の216番目のアミノ酸が発光色の決定に大きく関わることを見出した[3][4]。特に、鉄道虫は南米ブラジルにしか生息しな研究論文ヒトを含めた生き物の生命現象は、細胞内の多くの分子とその複雑な化学反応のネットワークにより制御されており、近年、このネットワークを解析する技術の開発が望まれていた。我々は発光色の異なるホタル(甲虫)の発光タンパク質(ルシフェラーゼ)に着目し、細胞内の複数の遺伝子発現を同時に検出する技術を開発した。開発した技術は実用化研究を経て、企業による製品化に結びついた。現在、本研究成果は、第1種基礎研究などへの回帰を経て、新たな実用化研究へと進展中である。ホタルの光の基礎研究から製品化研究へー 生物発光タンパク質に基づくマルチ遺伝子発現検出キット ー近江谷 克裕*、中島 芳浩産業技術総合研究所 セルエンジニアリング研究部門 〒563-8577 池田市緑丘1-8-31 産総研関西センター *E-mail:(13)−

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