Vol.1 No.4 2008
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研究論文:ナノテクノロジーから大容量・高出力型リチウム電池の実用化へ(本間)−257 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)ますか?回答(本間 格)簡単に説明すると図7に示したようにバルクの反応はリチウムイオンが固体内部までインターカレーション(イオンの挿入)を起こし、同時に構成する金属の酸化還元が起きることにより電気エネルギーを貯蔵する、いわばその材料の本質的な(標準的な?)電気化学反応に起因するものです。したがって、世界中で誰が実験を行っても化学量論組成の同一物質を用いれば、その平衡電位では必ず同じ量のリチウムイオンが貯蔵されます。ところが、表面での貯蔵機構はその物質固有の本質的な(バルク的な)特性とは異なり、あくまで表面が存在することにより顕在化する非固有の特性です。したがって、比表面積の違い、面方位(結晶モルフォロジー)の違いにより容量特性に差異が出てきます(すなわち実験グループによってデータが異なってきます)。図7においては速い電荷移動過程においてリチウムイオンの表面への吸着と同時に電子が表面層チタニアに入りTi4+/Ti3+の1電子還元反応を起こす表面反応として記述しておきました。すなわち結晶構造に関係なく表面反応が擬似容量の起源と考えています。さらに、例えばバルクでは起きないTi4+/Ti2+の2電子還元反応もリチウムイオンにとっては特殊な化学的結合状態であるナノ結晶表面では可能となり、大きな容量が発現するものと考えています。図7の赤色で示したリチウムイオンはこのような特殊な表面反応を示しており、バルクよりリチウムが高濃度に貯蔵されている様子を示しています。2電子還元まで起こせばTi2+まで存在するため下の図にあるように電位は下がり表面はより金属的になります。追記ですが、ナノ結晶では格子膨張が起きたり、バルクと異なる結晶構造(相)が安定化したりして、その表面はバルクの表面とも必ずしも同じでなく大変興味深い研究対象です。また逆に言えば新しい貯蔵メカニズムも発現する可能性があり、その基礎研究は今後も進展させていくつもりです。議論3 産総研と電池メーカー、自動車メーカーとの連携について質問・コメント(小野 晃)産学官の垂直連携のメリットが良く活かされた研究と思います。そこでプロジェクトリーダーであった著者に連携に関して質問します。本プロジェクトの中で産総研は電池メーカーから具体的にどのようなサジェスションを受け、それをどのようにプロジェクトに反映させましたか?また産総研あるいは電池メーカーは自動車メーカーから具体的にどのようなサジェスションを受け、それをどのようにプロジェクトに反映させましたか?プロジェクトリーダーの立場から、差し支えない範囲で結構ですのでご回答願います。回答(本間 格)現在、ナノサイズ活物質を利用して高出力化が図られることが明らかとなり基礎研究が加速している反面、実用的電極材料であるLiMn2O4やLi4Ti5O12でどのくらいのナノサイズの材料が最適なのかに関して、これまでまったく研究例がないことが驚きでした。図8に示したように活物質サイズにはミッシングリンクがあり、この未開拓領域を探索してナノサイズ効果に関する物理化学的知見を深め、かつ最高の容量・出力特性が得られるサイズを見出すことを最重要開発項目にすることを電池メーカーから提案されました。活物質のサイズ効果をナノ領域で系統的に調べることは基礎研究の観点からも重要であり、またその過程で明らかになる表面効果やイオン・電子の電荷移動過程のサイズ効果は、高出力型電極を開発する上でも大変貴重な材料設計指針となります。産総研ではこのような電池メーカーからの期待に答えるべく基礎研究の方向付けを行い、具体的には論文中で記載したようにチタニアなどの金属酸化物材料のナノサイズ効果に関して研究を進めました。また、自動車メーカーからは実際の商品化には低コスト化や生産性が重要な課題であることを指摘され、このサジェスチョンに基づきナノサイズ活物質の量産化プロセスの開発も同時進行させました。論文中には記載していませんが、溶融塩法など執筆者略歴本間 格(ほんま いたる) 1984年東京大学工学部金属材料学科卒業、1985−1991年同大学工学部助手、1991-1995年同講師を経て1995年工業技術院電子技術総合研究所入所。2001年から独立行政法人産業技術総合研究所電力エネルギー研究部門エネルギー材料研究グループ長。現在、エネルギー技術研究部門ナノエネルギー材料研究グループ長。工学博士。大学時代はアモルファスシリコン太陽電池の新材料研究や機能材料プロセスの研究に広く従事し、電総研入所後は固体高分子形燃料電池、スーパーキャパシタの研究などナノテクノロジーをベースとした革新的電源デバイスの研究開発に従事した。現在は主にリチウム二次電池の大容量化・高出力化の材料開発を行っている。2005-2007年にNEDOナノテク・先端部材実用化研究開発制度の下に「低抵抗・高イオン拡散性ナノポーラス電極による高出力型2次電池の研究開発」として長崎大学、産総研、日立マクセル、富士重工の4つの参画機関で垂直連携プロジェクトの研究開発リーダーを任った。査読者との議論 議論1 垂直連携の流れについて質問・コメント(水野 光一) 垂直連携型の共同研究はこれまでにも頻度の高い方法論です。本研究の場合、基礎的な成果が産総研→相手企業(電池メーカー)へ伝達される一方向の流れだけではなく、研究開発の内容について相手企業→産総研という逆方向の伝達があれば明示できますか?もちろん、相手企業から開発項目が提起されたことは理解できますが、これ以外で技術的な内容について双方向での交流があれば垂直連携の理解がいっそう深まります。回答(本間 格)産総研では電極材料のナノサイズ効果を学術的に解明するため各種サイズの揃っていて基礎研究に適した物質であるチタニアTiO2を選び、この酸化物に対する電極特性を系統的に調べました。この基礎研究フェーズではナノ化に伴う表面容量の出現や、それらが高速充放電に適したナノ結晶活物質であることを明らかにしつつ最適なナノサイズの探索も行いました。このようなナノサイズ活物質の優れた大容量・高出力特性は実用的な活物質材料でも利用できることを今回の産学官プロジェクトで相手企業側にも紹介し、共同開発を進めました。実際、相手企業の日立マクセル社では製品に用いる負極材料は産総研が研究を進めたチタニアと類似のチタン酸化物であるLi4Ti5O12でしたが、この材料をナノ化し容量・出力特性を最適化するためには図8にあるような活物質サイズのミッシング領域を探索し、どのようなサイズのLi4Ti5O12を市販電池に用いるのが最適なのかを明確化する必要性が産総研と企業の間で提起されました。このようにチタニアのサイズ効果(産総研⇒日立マクセルのforecast)の技術移転とLi4Ti5O12のナノサイズ活物質の実用性探索 (日立マクセル⇒産総研のbackcast)の双方向の情報交換・開発計画により事業化プランに上げられる実用電極材料でナノサイズの最適化を行いました。試験セルデータに使われた55 nm- LiMn2O4、100 nm- Li4Ti5O12は今回の連携開発において最適なナノサイズを見出した成果であり、従来型電池性能を凌駕する出力特性が得られていることを論文中に記載してあります。議論2 表面擬似容量について質問・コメント(水野 光一)電極固体内部でのインターカレーションよりも表面における“擬似容量”が充放電容量を広げるキーポイントであり、活物質のナノサイズ化が適用される好例であると判断します。表面擬似容量では「リチウム濃度が増大するにつれて表面が金属的になり電位が下がっていくもの」としていますが、反応機構や具体的な表面のイメージを説明でき(11)−

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