Vol.1 No.4 2008
13/87

研究論文:ナノテクノロジーから大容量・高出力型リチウム電池の実用化へ(本間)−256 Synthesiology Vol.1 No.4(2008)のプロセス、安全性とコスト性がさらに高いレベルで要求される。本研究の開発期間は3年間という短期間であったので、自動車電源の実用化にまでは至らなかった。垂直連携スキームは全ての連携機関に迅速に十分な技術移転が可能となるメカニズムである。一方、自動車メーカーから大学・産総研へのバックキャスト的な研究の方向付けや大学の基礎研究から自動車メーカーへの直接的な技術移転は、実際には、まだ相当に高いハードルがあったと言える。電池の大型化に関しても携帯電話、ノートパソコンなどの小型レベルの段階から、自動車搭載の大型電池まで技術的に一気に進展するわけではなく、中間段階を幾つか経由して完成されるであろう。そういう意味ではイノベーションを生み出すために、限られた時間と予算、さらに参画企業の市場戦略と技術ポテンシャルなど現実的な境界条件を十分考慮した産学官垂直連携を行う必要がある。6 要約イノベーションの多様性とスピード化が要求され、さまざまな連携型研究開発が模索されているなかで、本稿では異分野融合と産学官垂直連携による収束型イノベーション構成法が有効な研究開発プロセスになり得ることを、高出力型電池開発を実施例として述べた。大学で生み出された化学的合成プロセスをベースに、産総研がナノ結晶電極という大容量・高出力特性が実現する高性能活物質の開発に成功し、その活物質コンセプトを製品に応用すべく電池メーカーと連携開発を行った結果、ハイブリッド車の回生電源などに要求される電池セル性能で30 Wh/kg、 3 kW/kg の高性能リチウム電池の試作に成功し、さらに製品化に重要なサイクル特性も既存製品に比べて優れている大変良好な結果が得られた。現在、参画した電池メーカーでは今回の垂直連携開発の結果を生かして、パワーツール用電池として数年後に市場投入する製品の研究開発が進捗中である。ナノ結晶電極はナノテクノロジーとエネルギー技術の融合領域に発生した蓄電技術におけるイノベーションであるが、産学官垂直連携はこのようなイノベーションシーズの迅速な有効性の検証とプロジェクト化による短期間での戦略目標の達成に適したスキームであった。本稿で紹介したように、大学や産業界単独では不可能なイノベーションシーズの創出も総合研究所である産総研では容易であり、連携研究では中核的な研究機関となる資格がある。この理由は研究者密度が高いのと広い研究スペクトルを1つの組織内に有しているからであり、産総研では異分野の融合により多様なイノベーションシーズを高効率に産出できる。また、シーズの目標製品への応用可能性を迅速に検証するためには、エンドユーザーの企業も参画した垂直連携型での研究開発が有効であることを示した。この(異分野融合+垂直連携)の新しいイノベーション構成手法は研究開発のスピード化を目指す上で極めて有効なシナリオであると言える。ナノテクを用いた高出力型リチウム二次電池の研究開発においては、ナノ結晶電極という革新的な材料技術を短期間(3年)の間に製品化フェーズにまで展開することが可能であった。このシナリオは最終製品目標が決まっている短期決戦型の開発ではバイオ、情報、ナノテク・製造、環境・エネルギーなど他の産業分野でも有効な研究開発プロセスであると言えよう。7 謝辞今回の高出力型リチウム二次電池を目標とした産学官垂直連携開発に協力していただいた全ての関係者に厚く感謝いたします。特にチタン酸化物系ナノ結晶材料を電極材料としたときの特性データは、産総研エネルギー界面技術グループの周豪慎グループ長に多大な貢献をいただきました。活物質内の高速電荷移動のコンセプトに関しては工藤徹一東京大学名誉教授に本質的なアイディアをいただきました。ラミネート型電池の試作と電池特性試験を行っていただいた日立マクセル社の方々に感謝いたします。ポーラス電極構造の合成プロセスに関しては長崎大森口教授にご教示いただきました。また、プロジェクト遂行に多くのアドバイスをいただいたNEDOナノテク室、産総研産学官連携推進部門の方々にもお礼申し上げます。キーワードリチウム二次電池、ナノ結晶、大容量・高出力型電極、プラグイン・ハイブリッド車M. Okubo, J. Kim, M. Enomoto, N. Kojima, T. Kudo, H. Zhou and I. Honma: Nanosize effect on high-rate Li-ion intercalation in LiCoO2 electrode, J. American Chemical Society, 129, 7444 (2007).C. Jiang, M. Wei, Z. Qi, T. Kudo, I. Honma and H. Zhou: Particle size dependence of the lithium storage capability and high rate performance of nanocrystalline anatase TiO2 electrode, J. Power Sources, 166, 239 (2007).C. Jiang, I. Honma, T. Kudo and H. Zhou: Nanocrystalline rutile TiO2 electrode for high-capacity and high-rate lithium storage, Electrochemical and Solid State Letters, 10, A127 (2007).C. Jiang, Y. Zhou, T. Kudo, I. Honma and H. Zhou: Preparation and rate capability of Li4Ti5O12 hollow-sphere anode materials, J. Power Sources, 166, 514 (2007).C. Jiang, M. Ichihara, I. Honma and H. Zhou: Effect of particle dispersion on high rate performance of nano-sized Li4Ti5O12 anode, Eletrochimica Acta, 52, 6470 (2007).(受付日 2008.6.23, 改訂受理日 2008.10.27)[1][2][3][4][5]参考文献(10)−

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です