Vol.1 No.3 2008
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研究論文:実用化をめざしての再生医療技術開発(大串)−173 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)の材料(多孔体の合成ハイドロキシアパタイトと珊瑚骨格由来のハイドロキシアパタイト)を比較すると、前者では材料表面の気孔にのみ骨分化が生じる。これに比し、後者では気孔の内部にまで細胞が生着し、骨分化も良好に生じていることが分かる。さらに、同系ラットへの移植を行った。図5下図に見られるように、珊瑚骨格由来の多孔体ハイドロキシアパタイトには多孔体の内部にまで新生骨(図では赤色に示される)が見られた。このように、in vitroの培養とin vivoの移植研究により、用いられる生体材料の骨分化能に関する検証がなされうる。以上、骨再生医療に用いられる生体材料の有効性について事前に判定しうる評価技術を開発した。3.4 再生医療にかかわる標準化上述のように、再生医療においては、採種した細胞や培養増殖した細胞、さらに分化させた細胞が適切なものであることを確認するとともに培養プロセスの効率化を常に検証する必要がある。また、再生医療の産業化を考慮した場合、用いる細胞の安全性や有効性などの評価方法や基準の確立は必須である。標準化された細胞の評価方法を用いることにより評価結果の基準がつくられることとなり、安全性や有効性の判断が容易となる。すなわち、この標準化によりプロセスの効率化を進める上での指標が明確となり、再生医療製品作製のための計画立案、遂行が容易となる。3.3節に記述のように、例えば我々は骨再生医療に用いられる生体材料の評価方法を確立しつつある。そこで、その評価法の国際標準化を視野に入れている。国際標準化機構(International Organization for Standardization:ISO)では、現在約230の専門委員会(Technical Committee:TC)が積極的な活動を展開し、その中で医療機器に関してはTC150(外科用インプラント:Implants for Surgery)が担当している。そのTC150はさらに分科会(Subcommittee:SC)や作業部会(Working Group:WG)に分かれ、各国の専門家により、議論が進められている。再生医療分野では、WG11(Tissue Engineered Implants)において、再生医療技術に関する規格案が審議され、2007年1月にはSC7(Tissue Engineered Medical Products)への“昇格”が承認された。我々は規格案「ラット間葉系細胞を用いた多孔性材料内における生体内骨形成評価法」(提案名称:In vivo bone formation in porous materials using rat mesenchymal cell − Standardization to evaluate bone forming ability of biomaterials)を提出し、我が国発の再生医療技術の規格化に向け活動を開始している。図5にその規格案により行なわれた材料内での骨形成を示す。4 再生医療技術を利用した臨床応用再生医療における課題を克服すべく種々の技術開発を企業の方々とともに行ってきた。その結果として、世界に先駆けて再生培養骨が形成された人工関節を変形性関節症患者に移植することができた。最初の症例は既に約6年経過し、総数は50例を超えている。まだまだ短期的ではあるが、炎症反応や感染等の副作用も生じず、人工関節の有害事象である移植部での“ゆるみ”もなく良好な結果を保っている[6]。また、関節症患者のみならず、骨腫瘍[7]等にも再生培養骨が移植されている。(株)富士経済の調査によると日本における関節症患者数は約80万人でそのうち2万人が再生医療の対象患者であると推定されている。このように、我々の技術は多数の患者に適用される可能性がある。さらに、間葉系幹細胞が血管内皮や心筋細胞へも分化しうることを確認し[8]、国立循環器病センターとともに心再生への臨床応用も開始した。このように、患者自身の組織を犠牲にすることなく、最小限の侵襲(骨髄穿刺)により採取された、患者自身の細胞(骨髄細胞)を利用することにより、骨・関節疾患のみならず心不全等の治療技術の開発に成功した。この心不全の推定患者数は160万人である。今後、骨髄由来間葉系幹細胞の様々な組織構成細胞への分化能力を利用してさらに幅広い組織・臓器再生における臨床応用が期待できる。5 考察(残された課題)さて、以上のように我々は再生医療に用いられる種々の技術を開発し、その結果として骨再生をはじめとして、様々な疾患の患者に対して応用、すなわち臨床研究を行ってきた。しかし、数多くの患者にその恩恵を与えるには、企業がこれらの医療応用に対して取り組みを行うことが必須である。そのためには、これらの研究が治験(ちけん:(4)−生体内(ラット背部)移植後の骨形成珊瑚由来ハイドロキシアパタイト合成多孔体ハイドロキシアパタイト図5 生体材料の検証(間葉系幹細胞播種後の骨芽細胞存在部位)
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