Vol.1 No.3 2008
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−231 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)総説:個の「知」から全の「知」へていく、このように言うこともできます。構成と分析は単純な逆方向ではなく、入り組んだ、強いて言えば90度違う方向を向いているのだと思います。実はほとんど全ての生成物には環境との相互作用が絡んでいて、構成を難しくしています。進化も環境との相互作用で変化していくものです。製品でいえば、ユーザーの使い方や反応に相当する部分です。したがって、作ってから分析し、評価し、フィードバックさせていく、そういうループを何回も回すのが構成的な方法であると言えます。 広瀬 研吉 科学技術振興機構理事【パネルディスカッションコメント】研究者側と企業側の間に横たわる悪夢の時代を乗り越えていくために、もし研究者側と企業側の結びつきに困難があるとすれば、そこにはJSTのような科学技術の振興を担う機関の果たすべき役割があります。JSTは、悪夢の時代をつなぐいろいろな仕組みを用意していますが、今回のシンセシオロジー誌の論文にある、社会還元に向けた関門をどうクリアしていくのかについての記述を踏まえていけば、悪夢の時代を乗り越えるための仕組みをさらによく考えていけるのではないかと思います。つまり、研究者の持っている研究成果というのは、特許前のもの、特許手続中のもの、特許成立後のものというようにいろいろな段階がありますが、それぞれの段階に応じた仕組みを考えていこうというものです。企業の側にもいろいろな幅がありますから、企業の状況や幅を見ながら仕組みを考えて、よりきめ細かくやっていくことが重要と思っています。JSTの取り組みは、大きな意味では研究者側と企業側の間をできるだけ狭めていく、つなげていくということですが、もっとそれが重なるようにできないのかと考えています。例えば、一方で物質探索をしながら、もう一方で生産工程の研究をほとんど同時に検証しながらやっていくことができないか、こういう並行的な研究にチャレンジしたいと考えています。シンセシオロジーに期待することの第1点は、第1種基礎研究の成果を製品化し、社会に還元していくには、いろいろな要素を組み合わせて取り組んでいくことが必要ですので、シンセシオロジーの内容はまさにそれを世の中にきちんと示すことなのではないかということです。第2点は、成果を社会に還元するに当たって通るべき関門、それが大量生産なのか、標準化、規格なのか、また、コスト低減、エネルギー消費の低減なのかなどを丁寧に示すことです。そうすれば悪夢の時代に橋をかける役割を担おうとする者にとって大いに役立ちます。第3点目は、研究者、特に大学の先生方は、つい理論や計算のほうに、雑誌もサイエンスやネイチャーに向きがちであると感じています。そこで、研究者の側から社会に還元するための努力について、シンセシオロジーでステータスが与えられれば非常に意味のあることです。科学技術を振興する立場として科学技術の研究開発と知財戦略をどう結びつけていくのかが課題になっていますので、そういうところにもシンセシオロジーが取り組んでいただければと思います。木村 英紀 横断型基幹科学技術研究団体連合会長、独立行政法人理化学研究所理研BSI−トヨタ連携センター長【パネルディスカッションコメント】制御工学における制御理論では、1960年前後に、現代制御理論という非常に抽象的な概念が生まれました。これは制御系の設計に制御対象の数学モデルを使う非常に数学オリエンテッドな方法です。アメリカでも軍と宇宙を除けば、産業界ではほとんど使われませんでした。それが日本でも使われるようになった決定的な理由の1つは、ロバスト制御が発達したからです。ロバスト制御はモデルが不確かでもいいから使える理論で、これを一生懸命やったからです。実際の工場で動いているプラント、あるいは製品になっている制御系というのは、ごちゃごちゃした、泥くさいものですが、それでもちゃんと理論を使って設計できることが示されたのです。現在では、制御理論が非常にたくさん使われ、例えば、ロボットの歩行というのは制御理論そのものになっている感があります。さて、シンセシオロジーに期待したいのは、理論が出てきて、それが使えるためには何を克服したらいいのかということです。学問論の視点から述べますと、まず議論になるのが認識科学と設計科学です。認識科学というのは伝統的なサイエンス、特に自然科学を中心とした世界を知るためのサイエンス。一方、設計科学は対象を構成するためのサイエンスでシンセシオロジーと相通ずるものがあります。認識科学の方々が世の中では圧倒的に強く、ベーコン以来の確立された方法論を持っています。彼らは仮説を立てる、その仮説を実験によって検証するというループを回し、間違っていれば次の仮説を立てます。一方の設計科学には対応するものがあるのか。ベーコン流の仮説、検証のループを回すのに対応する設計科学の方法論、これが実は(62)−
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