Vol.1 No.3 2008
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−230 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)総説:個の「知」から全の「知」へ 野間口 有 三菱電機株式会社取締役会長【招待講演:基礎研究、その今日的意義】およそ20年前、欧米にキャッチアップするまで、日本は技術導入期でした。基礎研究および技術的に立証されたものを導入する形で、投資効率は高く、品質と生産性で強い経済力をつけました。その後、バブル経済の終焉を経て、先導型のR&Dに移行したと言えます。ただ企業がすべて自前のR&Dをやるわけではなく、産学官連携などを広くやろうという時代です。新しい技術も市場形成も自ら生み出さなければなりません。社会における法整備なども絡め、大変な努力を必要とする点で、先導型R&Dはキャッチアップ型R&Dと大きな違いがあります。先導型R&Dを進めるには基礎研究は重要ですが、市場経済の中で民間企業ではどうしても製品化研究の比重が大きく、「死の谷」の存在は投資効率の障害になります。そこで三菱電機は今やオープンイノベーションの体制をとっています。1つは産学官連携で、内外のアカデミアの基礎研究成果を活用しようという取り組み。もう1つは他の企業との連携も行っていこうということです。また、事業、知財、R&Dの三位一体経営を指向しています。事業戦略を立てるとき、製品や販売といった点だけではなく、その事業を支えるR&D能力の位置づけを行い、これまで蓄積してきた知財をどれだけ活用できるかを経営レベルでも把握します。核となる技術と知財を重視して事業をやっていくということです。三菱電機では5つのセグメントがあり、その中で技術的なシナジーを活かした強い電機・電子事業の複合体をうたっています。もちろん経営は技術的なものだけではありませんから、全社の知財を共有・活用し、21世紀の社会動向、技術ロードマップなどを考えながら、今後の50年100年を目指しています。歴史の長い企業ではどうしても組織間に壁ができ、1つの知が全体の知になりません。それをコーポレート(開発本部など)のところで見渡すようにして全体の知にする仕組みとしています。そうすると、R&Dが引っ張る事業が生まれることもあれば、知財の分析から事業戦略の提案がなされることもあります。R&Dには新製品や新技術の創出のほかに、生産性の向上、論文発表や標準化という期待もあります。特に国際標準は大事で、それを成果として提案できるよう、産学官連携で取り組みたいと思います。環境対策や品質改善活動でも横の連携をとって進めています。先導型R&Dの時代では成果もまた多様で、単に目に見える有用物だけではなく、世界の人から尊敬される日本生まれの知的財産やルール、そういうものがあるから安心してそれを使えると言ってくれるような成果を出すことも大変重要ではないかと思います。 中島 秀之 公立はこだて未来大学学長【招待講演:構成的方法論と学問体系】構成学の方法論をお話しするに当たり、最初に言葉の問題に触れます。科学とサイエンスという言葉がありますが、どうも1対1に対応していません。英語のサイエンスからアートを引いた部分が一般に日本語で科学と呼ばれていて、ここが第1種基礎研究に相当し、サイエンスとアートのオーバーラップする部分が工学や第2種基礎研究になるだろうと理解しています。日本語の芸術はアートからサイエンスを抜いた部分かと思います。もう1つは、視点をどこに置くかということで、研究者がシステムの外から観察するのが自然科学の方法論です。これに対して、研究者が中に入っている内部観察の視点があり、実は構成的なシステムを作る、もしくは構成的にシステムを作るというのは内部観察にならざるをえません。言葉の問題は言い換えれば文法とか構文の問題であり、視点の位置に関係しますし、思考をも規定していると考えられます。例えば、りんごを離れた位置から“もの”として見る場合は客観的な見方になりますし、りんごが落ちる“こと”というときはその動きを経験する立場になります。別の例を挙げると、川端康成の「雪国」は「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」で始まります。この英訳の1例は “The train came out of the long tunnel into the snow country.”で、原文における話者あるいは読者の視点は列車の中にあり、英訳では外から列車を見ています。システム内視点と客観的視点です。では構成的方法論とはどんな分野を扱うのか。例えば、複雑系、それから実験不可能な宇宙論や進化論。これらは多層システムであり、従来の分析的科学では幾つかの層をまとめて理解する方法論にはなっていません。そこでどうするのかというと、「ある現象が現れるのを期待する」とか「出てくるのを期待する」方法で、これこそ構成的方法論、あるいはイノベーションの唯一の方法論ではないかと考えています。すなわち、トライアル&エラーで、生成と選択を繰り返す方法論です。構成では部品集めから始め、モデルか試作品をとにかく作り、途中で分析を行い、改良を加え(61)−

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