Vol.1 No.3 2008
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論説:シンセシオロジー発刊について(大崎ほか)−224 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)発表する論文誌である、と言うのが正確だと考えるが、どうであろう。 次に、図2そのものについて、以下のような意見があった。 [佐藤] 企業やプロジェクトの種類によっては、研究成果の出口イメージは明確になり、矢印の向きが逆向きになるのではないだろうか。例えば、(事業部などからの要請で)開発目標となる製品のイメージが最初に示される場合には、要求を実現するために必要な基礎研究の成果は何か、また人員をどう構成するかを検討して、研究を開始することが多いのではないか。 粛々と製品開発に取り組む企業の一部、または短期的な研究プロジェクトで具体的な成果を収めようとする場合は、トップダウン的なマネージメントになるかも知れない。しかし、第1種基礎研究では、「未知なるものを明らかにしたい」という意志に動かされて研究を行う。そのため、新たに発見した知識が、直ちに事業化への足がかりになることは少ない。特に基礎科学的な研究分野では、成果が実際に社会で生かされるまでには長い時間がかかったり、埋没してしまうことが多い。図2は、そうした基礎研究の成果が事業化段階に至るまでに、研究者が陥りやすい状況を説明している。 また製品開発であっても、非常に意欲的な製品を開発しようという場合、出口のイメージは明確だが、製品化を実現するために必要な基礎研究の成果がすぐに見つかるとは限らない。そこで全く新しい基礎的な研究成果を得ようとし、ここで得られた基礎研究成果を事業化につなげるには、図2に示したような流れで研究が行われる。こうした場合、図2で指摘した状況に陥るかも知れないことは容易に想像できる。 4 開発の苦労話と技術報告書 ジャーナル発刊の趣旨の文に、次のような記述がある。「もちろん、これまでも研究者によって基礎研究の成果を社会に生かすための活動が行われてきた。しかし、そのプロセスはノウハウとして個々の研究者の中に残るだけで、系統立てて記録して論じられることがなかった」。この主張については、一部に誤解を招く恐れがないか、という指摘があった。[佐藤] 新ジャーナルが、第2種基礎研究の研究プロセスを論文として取り上げようと言っているが、企業ではすでに、社内刊行物に事業化の流れやプロジェクトの苦労話などを文章として残すことが一般的になっている。こうした刊行物は、○○技報、××社報などの名前で発刊され、同業他社の刊行物は企業内の図書館で閲覧可能である。また一般にも入手可能である。 例えば、日立グループでは新製品・システムを紹介しながら事業や技術の方向性を報告する刊行物として「日立評論」(http://www.hitachihyoron.com/)が定期的に刊行されている。2008年2月号のタイトルは「特集電力・エネルギー分野の最新技術開発」である[4]。大学や研究機関の研究者らが執筆する論文とは異なり、「原子力事業のグローバル化への取り組み」、「日立 H−25ガスタービンの特徴と適用例」など、新製品・システムの紹介を中心に、製品に関係した技術、適用例、開発を進める際の苦労話などが記事として取り上げられる。 他にも、三菱電機技報[5]、NEC技報[6]、東芝レビュー[7]などは、ウェブサイトから基本的に無料で配信されており、誰でも閲覧可能である。一方、NTT DoCoMoテクニカル・ジャーナル[8]やトヨタテクニカルレビュー[9]などは、雑誌として販売されている。 社報や技報は、おもに組織内部の活動を外部に紹介したり、解説する機会であるから、外部からの投稿を受け付けていない場合が多い。また、企業が個別に掲げる理念や目標を逸脱するような主張は、社報や技報の記事にはなりにくい。また、研究分野によっては、当為的知識や総合的判断(synthetic judgment)を論文に含めることをためらう文化がある。こうした状況から、基礎研究に軸足を置く研究者らが、成果を社会に役立てようとする活動の中で総合的考察が得られたとしても、その考察を系統立てて論じるための受け皿があるとは必ずしも言えない。 5 公開しない研究成果 [古川] 第2種基礎研究では、分野によっては、事例研究が成果となる場合が多いと思うが、守秘義務契約などによって公表できないことはないのか。 企業では、利益に直結するような研究成果は非公開が原図2 実用化段階の研究 実用化研究段階研究資金の不足事業化実現のリスク論文化が困難サポート体制の不足事業化段階基礎研究段階(55) −
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