Vol.1 No.3 2008
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論説:シンセシオロジー発刊について(大崎ほか)−223 けないため、研究プロセスに独自性がある。従来の学術研究の基準では、研究プロセス自体を研究成果として取り上げることは難しいため、苦労のわりに学術論文などの成果物を生みにくいと評される。また、目に見える成果を得るまでに長い時間を要したり、研究遂行のために解決すべき問題が多岐に渡っていたりするなど、多くの研究リスクが常に付きまとうことも特徴である。 しかし、研究者のもつ知識と専門的な技能を生かして、社会が求める成果を得ようとする活動こそが、基礎研究と社会生活とが互いの存在を確認し合える機会を作る。執筆者の一人である大崎が所属するシステム検証研究センターでは、社会を観察し、それを説明する枠組みを作る研究を「フィールドワーク」と呼んでいる[2]。上述の第2種基礎研究の定義に照らすと、第2種基礎研究をフィールドワークと呼ぶことに、あまり抵抗がないのではないだろうか。 一方で、一般にはまだ馴染みの薄い2つの基礎研究の概念を、言葉による定義だけで直ちに理解することは難しい。そこで、CSセミナーの解説では、図1に示す概念図を作成して、第1種、第2種基礎研究の説明に用いた。 2種類の基礎研究は、左右2つの楕円で表現した。2種類の基礎研究が相互に作用し合う様子は、一方から他方へ向かう大きな矢印で表現した。つまり、第1種基礎研究と第2種基礎研究を往き来することを、楕円を結ぶ大きな矢印を通じて、一方から他方へ往来する様子で表現する。さらに、2種類の基礎研究の特徴を説明するために、第1種基礎研究は自己完結した円運動から成り、第2種基礎研究は全領域を横断的に流れる動きから成る、という解説を加えた。 第1種基礎研究と第2種基礎研究は、いずれも製品化研究へ移行可能である。そこで、「イノベーションを実現する研究方法論」[3]で示された概念図とは異なるが、製品化研究を表す領域は、2種類の基礎研究の中間に配置した。図は、2種類の基礎研究を連続的に往来しながら、結果として製品化研究へつながっていくことを表している。 CSセミナーの参加者には若い研究者も含まれており、「2種類の基礎研究を往き来するというイメージを掴みにくい」(大門)という感想もあったが、ここまでの説明に特段の異論や質問はなかった。 3 第2種基礎研究=実用化研究 ? 基礎研究で得られた研究成果をもとに、事業化の段階に進むためには、研究成果を利用したいと望む誰もが、その成果を容易に利用可能であることが求められる。基礎研究段階から、実用化研究の段階を経て事業化に至る、という流れである。一方、前節の第2種基礎研究の問題点でも挙げたように、基礎研究成果をもとに事業へ発展するという図式は、実現の保証が約束されている訳ではない。図2は、基礎研究の段階から事業化に至るまでの流れと、陥りやすいと指摘されている問題点を表している。 ここまでの説明に対して、CSセミナーで次のような質問があった。以下、発言者の名前は敬称を略す。 [南] では、第2種基礎研究とは、実用化研究のことなのか。 図2に示した実用化研究は、将来の事業化を目指した研究の発展段階の1つである。基礎研究成果をもとに、社会的に認知可能な形の研究成果を得ようとする研究を意味する。よって、前節の定義より、第2種基礎研究 ⊇実用化研究」(実用化研究ならば、第2種基礎研究 )は成り立つ。一方、「第2種基礎研究 ⊆実用化研究」(第2種基礎研究ならば、実用化研究 )が成り立つならば、図2に示した「基礎研究 →実用化研究 →事業化」の図式より、第2種基礎研究の目的は事業化となる。かたや、第2種基礎研究の中には、要素技術や特定の材料を抽出した後、その技術や材料を科学的な目で観察して、体系化する衝動に駆られることがある。つまり、第2種基礎研究の目的が常に事業化であるとは言い難い。よって、「第2種基礎研究 実用化研究」であると考えるのが自然である。 ジャーナルSynthesiologyは、第2種基礎研究の成果を発表する論文誌であると謳っている[1]。確かに、従来の価値基準では論文の題材としては取り上げにくい研究プロセスこそが、第2種基礎研究では重要である。Synthesiologyでは、研究プロセスに注目し、それを論文の題材として取り上げる、としている。 上述の「第2種基礎研究 実用化研究」であるという考察を合わせると、Synthesiologyは、第2種基礎研究の、特に(図2の意味の)実用化研究の成果やその研究プロセスを図1 2種類の基礎研究Synthesiology Vol.1 No.3(2008)製品化研究(事業化)第1種基礎研究(学術研究)第2種基礎研究(フィールドワーク)融合・進化分類・体系化(54) −
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