Vol.1 No.3 2008
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論説−222 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)1 背景 本稿は、産業技術総合研究所(以下、産総研と略す)が2008年1月に創刊したジャーナルSynthesiologyについて、イリノイ大学日本人研究者らと行った討論をもとに、執筆者らの考察を述べる論説である。 まず最初に、本稿を執筆するに至った背景を簡単に述べる。ジャーナル創刊当時執筆者の一人である大崎は、産総研の在外研究派遣制度により、2007年6月からイリノイ大学に 1年間の滞在予定で、システム検証技術とツリーオートマトンの研究に従事していた。また、研究のかたわら、自らの研究分野を解説する講義をイリノイ大学大学院生らに試行したり、計算機分野の日本人研究者らを対象としたセミナー(CSセミナーと呼ぶ)の運営に関わっていた。 CSセミナーは、イリノイ大学の日本人研究者らに研究交流の場を提供することを目指して2007年8月から始まった。セミナーの趣旨はおよそ次の通りである。専門分野の違う研究者らに対し、各人の研究内容や主張を紹介することを目的とする。セミナーの参加者は、自らの経験や知識にもとづいて意見や質問ができる。セミナーでは、話題提供者による発表とともに、自由討論の場を提供する。 セミナーの回を重ねるごとに、参加者の背景は明らかになっていく。同じ計算機分野と言えども、研究スタイルや研究を通じた社会との関わり方は、大きく違っていた。大学教員、大学院生、または研究員という立場の違いも、各人の考え方に大きく影響しているようであった。 こうしたCSセミナーという場を借りて、大崎が話題提供者となって新ジャーナルやその背景にある産総研の理念を説明し、セミナー参加者による討論会を2008年3月に行った。産総研が取り組む新たな挑戦は、自己満足に陥っていると一蹴されるのか、それとも傍目八目(おかめはちもく)の諺どおり、当事者以上に産総研の取り組みの是非は見通されているのか、振ってみなければ賽(さい)の目は分からない、という状況であった。 事前に、シンセシオロジー編集委員会からは、座談会形式の記事が提案された。しかし、自由討論の雰囲気を壊したくない、また、あくまで本稿の主張は明確にしておきたいという2つの理由から、編集委員会からの提案は採用されなかった。 したがって本稿では、セミナーで自由に発言された研究者らの意見を引用しながら、執筆者らの考察を中心に据えて本文をまとめている。 2 学術研究とフィールドワーク 産総研が目指す本格研究は、3種類に分類された研究から成る。それらは、第1種基礎研究、第2種基礎研究、製品化研究と呼ばれる。以下、本格研究に関する記事[1]をもとに、用語や基本概念の説明を行う。 第1種基礎研究は、「閉じた領域の特定知識をもとに、その領域知識と矛盾しない新しい知識を実現する研究」と定義される。既存の知識との相互干渉を起こさない独立性をもった新たな知識を獲得し、それを整理して知識体系全体に寄与することを目的とする研究である。一般的には、「学術研究」と呼ばれる。 第2種基礎研究は、「領域無限定の知識を融合し、必要に応じて新知識を創出して、社会的に認知可能な表現形態を実現させる研究」と定義される。知識の領域に限定を設シンセシオロジー発刊について ー イリノイ大学日本人研究者らとの討論を通じて ー本稿では、ジャーナルSynthesiologyの創刊とその背景にある産総研の理念について、イリノイ大学計算機分野の日本人研究者らと討論した様子を紹介する。また、議論を通じて得られた質問や意見をもとに、ジャーナルを取り巻く問題や、今後検討すべき課題を明らかにする。 大崎 人士*、佐藤 裕二***産業技術総合研究所 システム検証研究センター 〒560-0083 大阪府豊中市新千里西町1-2-14 三井住友海上千里ビル5階産総研関西センター千里サイト **法政大学 情報科学研究科 〒184-8584 東京都小金井市梶野町3-7-2 *E-mail:ohsaki@ni.aist.go.jp(53) −
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