Vol.1 No.3 2008
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研究論文:水に代わる密度標準の確立(藤井)−208 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)(39)−られる方法」としてその使用が認められていたものの、その使用にあたっては国税庁への申告が義務付けられていた。また、密度をアルコール濃度に換算するためのアルコール表については、国税庁所定分析法に値が記載されていたが、JCSSに基づいて校正された振動式密度を酒税の分野においても導入するためには産総研が計量法において使用しているアルコール表との整合を図る必要があった。このため、国税庁と連携し、産総研で使用しているアルコール表をホームページ上で公開し、醸造産業の関係者が産総研のアルコール表を参照することができるようにした。これにより、JCSSに基づいて校正された振動式密度計で測定したアルコール濃度が酒税法における賦課の根拠として用いることが可能となった。これによって振動式密度計の普及が進み、2007年からは国税庁による規制が緩和され「振動式密度計によるアルコール濃度の測定」が国税庁所定分析法に取り入れられた。すなわち、JCSSで認定された登録校正事業者が供給する密度標準液で校正された振動式密度計であれば自由に酒類のアルコール分の測定に用いることができるようになったのである。JCSSによって認定された密度計測器は行政においてもその信頼性が認められ、醸造産業などでもその使用が着実に増加しつつある。6 新しい計測評価技術への発展 密度の比較測定技術のなかでJCSSに取り入れられているものについては3.3節で述べたが、産総研ではその他にも新しい密度比較計測技術を開発し、材料の先端的計測評価技術や省エネルギー技術などに貢献するための計測技術開発を行っている。圧力浮遊法[36]によるシリコン固体密度比較技術は、元々はアボガドロ定数の高精度化を目標としてシリコン結晶内の微小な密度分布を検出するために開発した計測技術であるが、その相対密度差の測定精度が極めて高く 10−7~10−8まで検出することができるので薄膜の密度計測[37]にも応用することが可能である。シリコン基盤上に形成された厚さ10~100 nmの薄膜密度を約 0.1 %の相対不確かさで測定することに成功した。この計測技術を用いて、異なる製法で蒸着した酸化膜の密度を評価し、最も緻密な密度をもつ膜の製造プロセスを特定することが可能となった[38]。 更に最近では3.3.3項で述べた磁気浮上式密度計を改良し、試料流体そのものがもつ反磁性の影響をほぼ完全にキャンセルすることができる新しいPVT性質(圧力-密度-温度関係)計測技術を開発した[39]。この新しい磁気浮上式密度計はシリコン単結晶とは密度の異なるゲルマニウム単結晶もシンカーとして用いたダブルシンカー方式を採用したものであり、作動流体や代替冷媒のPVT性質をより高精度に計測することが可能である。 シリコン固体密度標準を用いたこれらの計測技術の応用例を表3にまとめた。これらはシリコン単結晶の密度を基準とする密度標準体系があって初めて創出されたものであり、従来の水の密度を基準とする標準体系から開発することは極めて困難であったと言えよう。7 おわりに 完全に近い結晶性を有するシリコン単結晶は形状安定性、密度安定性など固体密度標準物質としての優れた材料特性を備えている。産総研ではシリコン球体の直径と質量の絶対測定から密度を絶対測定する技術を開発し、密度の比較計測技術との統合によって水に代わる新しい密度標準体系を構築した。これらの密度計測技術は計量法における基準器検査制度や検定制度などに取り入れられただけではなく、JCSSにおける密度のトレーサビリティ体系の構築を実現し、産業界で用いられる密度計測器のトレーサビリティの確保に貢献している。JCSSによって校正される密度計測器の校正件数は着実に増加しつつある。 この固体密度標準体系を新しい材料評価技術や熱物性基本量の標準特定標準器特定二次標準器校正事業者が校正する計測器光周波数キログラム原器光干渉測定質量測定単結晶シリコン球体(0.2×10-6)シリコン単結晶(0.3~10×10-6)浮ひょう密度標準液分銅及び固体材料浮ひょう振動式密度計(液中ひょう量法)(液中ひょう量法)(液中ひょう量法)(比較法)(1~2×10-4)(5~20×10-6)(1~50×10-6)(1~5×10-4)(1~5×10-5)(衡量法)長さ標準(m)質量標準(kg)図7 単結晶シリコン球体の密度を頂点とするトレーサビリティ体系。括弧内の数値は95 %の信頼の水準における相対拡張不確かさを表す。表3 新しい密度比較計測技術の開発と応用測定方法特徴応用例シリコン単結晶の試料間の微小な密度差を検出シリコン結晶内の密度分布評価薄膜の密度計測相対密度差の測定の不確かさは10-7~10-8薄膜製造プロセスの評価 シリコン結晶内の欠陥評価極めて高い精度の温度制御を要する(10~100 μK)フレキシブルプリント基盤の密度評価SAWデバイスの密度評価磁気浮上法PVT性質の精密計測磁化率が未知の流体であってもその反磁性の影響をほぼ完全に相殺させて密度計測を行うことが可能シリコンとゲルマニウムの単結晶からなるダブルシンカー方式を採用炭酸ガス排出抑制気体、液体の密度計測作動流体、代替冷媒の熱物性評価省エネルギー技術開発地球環境保全圧力浮遊法
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