Vol.1 No.3 2008
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研究論文−170 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)1 緒言近年のライフサイエンス技術の発展により、従来は根治治療が不可能であった疾患においても、革新的な治療を支える先進医療技術の応用が現実のものとなりつつある。臓器・組織移植以外の選択肢を持たなかった重篤な疾患においても、こうした先進医療技術による新規高度治療の可能性が具体化している。例えば、細胞を用いる再生医療による種々の難治性の疾患治療が試みられつつある。再生医療では、通常採取された細胞は培養による増殖・加工(分化)という過程を必要とする。この培養においては、当然のことながら、外部からの細菌、真菌、ウイルス等の感染があってはならない。さらに、感染の防御のみならず、増殖・分化操作を受けた細胞がその安全性や有効性を担保されていることも必須である。種々の細胞を用いての再生医療が想定されるが、ES細胞を用いた基礎研究から医療現場で既に用いられている患者自身の体細胞を用いての治療まで様々なリスク、実用化段階のものが存在している。さらに、最近では京都大学山中教授等により開発された人工万能細胞(iPS)が倫理的な問題のあるES細胞に取って代わり応用される可能性が示唆されている。しかし、現段階ではES細胞やiPS細胞は移植によりテラトーマという腫瘍を形成し、その安全性は確立されておらず、治療に用いることはできない。以上の状況に鑑み、本論文は再生医療技術の開発とその技術利用における問題点を整理し、早期の臨床応用をふまえて、社会に受け入れ易い医療システムの構築、特に骨再生技術を確立したので、それにいたるアプローチならびに成果について記述する。2 再生医療技術開発における課題再生医療とは、細胞あるいは細胞由来の組織の移植により、病気や傷害などによって失われた臓器や組織の機能を修復・再生する医療と考えられる。他の既存の治療と異なり、ユニークな点は培養という工学的な技術により細胞を増殖・加工(分化)するプロセスが存在することである。このためには、用いる細胞の選択、培養工程プロセスの安全性確保が必要である。例えば、ヒト(哺乳類)の細胞を増殖するためには、細胞を種々のアミノ酸やビタミン等が含まれた液体の培地の中で培養を行う。しかし、このとき一個の細菌でも混入すると、細菌の増殖率はヒト細胞より数倍~数十倍高く、ヒト細胞が増殖したときには、それよりはるかに多くの細菌も増殖することとなり、この培養細胞の患者への移植により感染症が発生する。この感染を防ぐために、厳重に管理された無菌空間内研究論文近年、細胞を培養増殖・加工して種々の疾患治療に用いるという再生医療技術が注目されている。この技術を臨床応用するためには、これら培養プロセスの安全性のみならず用いる細胞の有用性の担保も必要である。これらプロセス構築にかかわる問題点を整理して解決し、実際の治療応用への展開に成功した。実用化をめざしての再生医療技術開発ー 安全を担保したヒト細胞操作プロセス構築と臨床応用 ー大串 始産業技術総合研究所 セルエンジニアリング研究部門 〒661-0974 尼崎市若王寺3-11-46 産総研関西センター尼崎事務所 E-mail:hajime-ohgushi@aist.go.jp(1)−細胞採取患者移植規則(安全性)(有効性)再生医療に用いる細胞の流れ第一種基礎研究第二種基礎研究社会還元(疾患治療)細胞選択とその検証病院レギュラーライセンス骨芽細胞への分化誘導(培養骨作製)国際標準化(ISO TC150)細胞処理(血球系細胞除去)間葉系幹細胞増殖基材(生体材料)細胞播種ヒト細胞培養施設(CPC)培養骨作製に適した生体材料の検証図1 患者細胞の培養から移植までの流れ
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