Vol.1 No.3 2008
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研究論文:水に代わる密度標準の確立(藤井)−202 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)器による一般気体定数Rの絶対測定[15]や、液体電位計によるジョセフソン定数 KJ=2e/h(ここでeは電荷素量を、hはプランク定数を表す)の絶対測定[16]における主な不確かさの要因となっている。 このように、従来から用いられている液体の密度標準には測定結果の不整合や同位体組成の不確かさに起因する問題が残されているため、これらのデータから 1×10−6よりも小さい相対不確かさの密度標準体系を構築することは極めて困難である。その一方で、計量標準の分野においても国際相互承認(MRA)を加速し、計測におけるトレーサビリティを明確にすることが求められるようになり、特にSI単位の定義にトレーサブルなかたちで密度を計測することが求められるようになってきた。また、振動式密度計などに代表される高感度な密度センサーが産業界でも広く用いられるようになり、計量法で行っている浮ひょうの基準器検査制度や検定制度だけでは十分な精度の密度標準を供給することが困難になってきた。特に醸造産業ではアルコール表を使って密度測定から酒類のアルコール濃度を決めているため、自動計測化に対応でき、かつ、高精度な測定が可能な振動式密度計の導入が検討されるようになり、計量法に基づく校正事業者登録制度(JCSS)によるトレーサビリティ体系の構築が求められるようになってきた。 近年は産業界からだけではなく、SI単位の定義の改良や基礎物理定数の決定など科学技術的視点からもより高精度な密度標準が求められている。特に人工原器に頼る唯一のSI基本単位であるキログラムを再定義するための実験的研究がNMIJや海外の計量標準研究機関で行われている[17]。シリコン単結晶の密度、格子定数、モル質量のなどの絶対測定からアボガドロ定数を決定するX線結晶密度(XRCD)法では、同位体濃縮されたシリコン単結晶の密度を 1×10−8の相対標準不確かさで絶対測定することが求められている[18]。 このような背景から産総研では2001年までにシリコン単結晶を頂点とする密度のトレーサビリティ体系を構築し、従来の計量法では対応できなかった固体密度の標準供給を開始した。現在までに浮ひょう、密度標準液、振動式密度、固体材料、薄膜、PVT性質等に対応した密度校正技術を開発し、SI単位の定義にトレーサブルな密度標準を産業界やユーザーに提供することに貢献している。2 新たな密度標準体系の必要性2.1 社会的ニーズ 石油化学産業、アルコール産業、醸造産業、食品産業などでは製造工程や品質管理のために液体の密度が計測される。特にアルコール濃度の正確な計測は酒類の製造管理、成分表示、流通そして公平な酒税の賦課に不可欠なものである。計量法では経済活動やサービス等において特に重要な計測器を特定計量器に指定し、計測器の構造と仕様に対して型式承認実験を実施することを定めてきた。液体の密度計測については特定計量器として検定された密度浮ひょう、比重浮ひょう、酒精度浮ひょうなどが供給されてきた。浮ひょうは「浮きばかり」とも呼ばれる密度の計量器であり、アルコール濃度と密度との関係を表すアルコール表[19]を使って酒精度浮ひょうの目盛が校正される。浮ひょうの目盛は従来は水の密度を基準として校正されていたが、その構造上、液体試料の表面張力の影響を受けやすく、浮ひょうによる密度測定の相対不確かさは最も小さい場合でも約 1×10−4である。これに基づくアルコール濃度測定の不確かさは約0.1 %であった。また、浮ひょうの目盛は測定者が肉眼で読み取る必要があり、安価ではあるが計測の自動化に対応しにくいという側面もある。 一方、国税庁による酒税の賦課において最も広く用いられている計測方法は酒精度浮ひょうによるアルコール濃度計測である。国税庁所定分析法では計量法に基づいて検定された酒精度浮ひょうが用いられている。これは賦課の際に用いられるデータには公平性が求められるが、第三者認証の得られたアルコール濃度計測器としては計量法で検定された酒精度浮ひょうのみしか当時は供給されていなかったためである。 このような状況のなかで、醸造産業では品質管理の高度化、自動化などに対応できるより高精度な密度計測器への需要が高まっていた。製造工程を緻密に管理するためにはアルコール濃度を0.05 %程度の精度で計測したいという要望が産業界からあり、そのためには少なくとも0.005 %の精度で国家計量標準にトレーサブルな密度標準を供給することが必要だった。 振動式密度計は極めて分解能の高い密度計測器であり、最も安定なものでは10−6~10−7の再現性で液体の密度を計測することができる。この問題を検討し始めた当時から醸造産業では既に振動式密度計が試験的に導入されていたが、その正確さを保証するためには密度標準液と呼ばれるあらかじめ密度が校正された標準液体で密度と振動数との関係を校正しておくことが不可欠である。そのためには第三者認証の得られた密度標準液を約0.001 %の相対不確かさで供給することが必要であるが、我が国ではトレーサブルな密度標準液の供給体制が整備されていなかった。2.2 科学的ニーズ 真空中の光の速さc、プランク定数h、電気素量e、アボガドロ定数NAなどは自然現象を記述する際に現れる基本的な物理定数であり、これらの基礎物理定数を国際単位系(33)−

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