Vol.1 No.3 2008
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研究論文:フレキシブルプリンタブルデバイス製造技術の開発(鎌田ほか)−193 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)しなくなる。そこで我々は、汎用インクでも低抵抗が得られる低温焼成技術の開発に取り組み、圧力を用いる技術を適用することで技術導入を実現させた(図3)。ここでもやはり反応に要する温度をいかにして下げるかがポイントであった。本技術においては、圧力エネルギーを利用することで低温化に成功したわけだが、この圧力エネルギーは、全体に均質エネルギーとして与えるのではなく、局所に異方的エネルギーとして与えることで低温化を実現させたのである。すなわち、エネルギーは欲する局所に集中させ、周辺の不要部分には分散させないという考え方である。結果的に、この手法で汎用銀ペーストを用いた印刷パターンにおいて、120 ℃以下の反応温度で抵抗率6×10−6Ωcm(参考:バルク銀の低効率=1.6×10−6Ωcm)を得るに至っている。前述のナノ粒子銀ペーストを用いても、同様の抵抗率を出すためには200 ℃以上の加熱が必要となっているのに比べると、圧力エネルギーが低温焼成に極めて有効に働くことがわかる。 3.3 プリンタブルデバイス製造プロセス一方、プリンタブルデバイス製造技術を開発するに際して、最も大きなハードルとなっていたのが、「プリンタブル」というプロセス仕様要求と高性能動作というデバイス仕様要求とが両立できるかというところにある。デバイス性能は、ある程度微細な構造制御を行なうことが必須となるために、加工精度が担保できるかということが絶えず問われる。通常液相プロセスでは、デバイス加工をする際に、面内方向の微細加工精度があまり高くなく(数十μm程度まで)それ故に面内加工精度が必要なトランジスタ素子などは、十分な機能を発揮させることができないのではないかと目されていた。そこで我々は、プリンタブルデバイス製造技術を確立するためには、まずこの技術課題を解く方法を開発することが技術分野にブレークスルーを与えるものと着目し、そのための技術開発に取り組んだ。①トップ&ボトムコンタクト型トランジスタ 技術開発上の着眼点として、まずプロセス面内加工精度は数十μm程度までしかないという事実は一旦受け入れること、その上でデバイスのパフォーマンスを決める数μm以下の動作部位(チャネル)を素子構造設計により構築することという方針を立てた。こうして開発したのが「トップ&ボトムコンタクト型トランジスタ」である[2](図4)。デバイスのパフォーマンスを決めるμm以下のスケールでの制御を要するチャネル部位は、膜厚方向に設置されるように設計し、制御は膜厚でなされるようにした。これで、面内方向の加工精度は高精度を要求しなくても良いようになるわけである。この結果、基本的には、描画細線の積層だけでトランジスタが作製できるようになり、その際でもサブμm台のチャネル長を形成させることに成功した。この素子構造を用いることで、比較的移動度の低い高分子半導体(μ=10−2 cm/Vs台)を用いて、全て印刷技術で形成したトランジスタにおいても、出力電流の電界効果変調率に当たるSS値にして0.2 V/dec以下の性能が発揮できることを実証した。これにより、プリンタブルという製造プロセスとデバイス性能の向上という要求とが両立可能であることを示すこととなった。 4 いかに産業展開させるかのシナリオ上記は、我々が開発した代表的な要素技術の例である。これらを個別に見ると、その技術価値は個別の特異的な技術にしか見えないかもしれない。しかし、これらの開発のシナリオとその技術の位置づけとを把握してもらうと、とたんに違う世界が見えてくる。次に、筆者らが産業展開を見据えて推進した上記技術開発のシナリオを紹介する。4.1 エンドユーザーと技術ユーザーの異なる要求斬新な技術を開発しても、それを誰が欲しがっているのかを把握していなければ、技術のアピール点を見出しそこなってしまい、結局は世に送り出せなくなってしまう。そこで、まず誰が何を求めているのかという点を良く分析・把握することを重要視した。情報端末機器というのは、まず何よりもそれを使用する人(エンドユーザー)の要求が最も重要である。それでは、エンドユーザーが欲しくなるようなものを提供するということで技術要求を整理することができるのかというとそうはいかない。この技術要求も、機器の生産者、すなわち製造する企業の要求と合致する点がないと成立しないのである。例えば、エンドユーザーが欲する利便性の高い情報端末機器が1個10円でできる技術を提供するとする。しかし、これを1億個売っても売り上げは10億円にしかならない。これでは大企業では生業として成り立たなくなってしまうので、技術を欲することはない。しかし、事業規模の小さな企業であるならば十分成り立っていく。当たり前のことだが、こうしたことが「誰が欲しがる技術か?」ということの原点となっていくわけである。(24)−LL・ 積層工程のみで作製・ 短いチャネル長の制御・ 効果的電荷注入効率構造・ 高品質半導体層の形成可能ボトム電極トップ電極絶縁層半導体層ソースドレインゲートトップ&ボトムコンタクト(TBC)構造ゲート図4 全印刷素子形成のためのトップ&ボトムコンタクト (TBC)構造の開発
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