Vol.1 No.3 2008
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研究論文:実用化へ向けた有機ナノチューブの大量合成方法開発(浅川ほか)−189 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)(20)−る。本論文では、有機ナノチューブのナノバイオ分野での応用展開において重要なツールとなる発光性有機ナノチューブの製造を担当した。小木曽 真樹(こぎそ まさき)1995年工業技術院物質工学工業技術研究所入所以来、ペプチド脂質の自己組織化による1次元ナノ構造体形成に関する研究を推進している。研究のコンセプトは「簡易な化合物から簡易な手法で世界に類のないナノ構造体を形成させる」。これが功を奏して、世界で初めて有機ナノチューブの大量製造法を開発することに成功し、実験室レベルでの基礎研究から実用化を目指した本格研究へと繋がった。現在は、グリシルグリシン部位をもつ簡易なペプチド脂質を用いた、様々な表面官能基をもつ有機ナノチューブライブラリの構築を検討している。本論文では、大量合成法の開発と用途開発を担当した。増田 光俊(ますだ みつとし)1992年工業技術院繊維高分子材料研究所入所以来、双頭型糖脂質や芳香族アミド等、分子の自己組織化によるナノファイバーやナノチューブ形成、重合による機能化などの研究を推進してきた。有機ナノチューブにおいてチューブ内外表面の非対称化、内表面の選択的な修飾法を開発した。現在、有機ナノチューブの中空ナノ空間の物性解明、実用化のための要素技術開発について検討している。本論文では、両親媒性分子の分子設計、合成技術開発を担当した。南川 博之(みなみかわ ひろゆき) 1988年工業技術院繊維高分子材料研究所入所以来、糖脂質など機能性脂質を研究対象にして、分子設計・合成、脂質分子集合体・液晶の構造・機能解析、コロイド化学などの研究に従事してきた。現在は脂質集合体の生体高分子との相互作用への研究展開を行っている。本論文では、有機ナノチューブの分子設計に基づく構造相関評価並びに物性評価を担当した。清水 敏美(しみず としみ) 1977年工業技術院繊維高分子材料研究所入所。2001年から産総研界面ナノアーキテクトニクス研究センター長、2008年から同所研究コーディネータ。工学博士。1996年から工業技術院・産業科学技術研究開発制度を皮切りに、JST−CREST、JST−SORSTの研究代表者を務め、一貫してボトムアップナノテクノロジーの開拓と発展に全力を注いできた。本論文では、有機ナノチューブ形成用分子の最適化やナノバイオ応用に関する研究総括を担当した。査読者との議論議論1 産総研が主導すべき研究開発範囲の考え方質問(五十嵐 一男)図4中の(5)が製品化技術となっていますが、論文を最後まで読んでも製品化研究開発のための技術移転策について述べられているのみです。著者が考えている産総研が主に担う研究開発の範囲とここに記載されている製品化技術の位置づけを教えてください。回答(浅川 真澄)図4では、産総研から企業への寄与の状況を黄色から緑色への色の変化で表しました。(5)の製品化技術に関しては、主に企業側で開発されると考えており、論文中では(3)、(4)の段階を経て、企業側で迅速に製品化技術開発が行われるような技術移転策と研究経営手法が必要であると論を展開しました。したがって、どの段階まで産総研が関わるべきかという課題はありますが、製品化技術開発に関しては企業側が主体となると考え、本論文ではその手前までに関して述べました。議論2 有機ナノチューブのナノリスクへの対応質問(五十嵐 一男)図4の安全性評価技術について、本文中では「初期段階では既存評価技術を用いた既存情報と比較可能な評価手法を選択するべきであり、その点において新たな技術開発の余地は少ない。」とありますが、安全性評価技術に関しては、開発段階によって評価手法が異なってくるとは思えません。どこのレベルまで評価するかということでしょうか。また、4.においてラットに対する安全性試験を実施していますが、本文をそのまま読むと筆者らが自身の実験室で実施したように受け取れます。それが正しければ問題ありませんが外部に委託したのであれば外部委託であることを明記することが望まれます。加えて、信頼性に関しては如何でしょうか。回答(浅川 真澄)有機ナノチューブはナノサイズの材料であることから、その安全性評価技術はいまだ各分野で定まっている状況であるとは言えないと考えました。材料はナノサイズとなることで、反応性や浸透性の向上が期待されるとともに、予想外の効果も考慮しなくてはなりません。例えば、食品や医療分野においてナノ材料が使用された場合には、そのサイズに由来する効果が期待される反面、予想外の影響が発現する可能性も考慮した評価技術を開発する必要があります。現在、農業・食品産業技術総合研究機構の研究者と検討する体制の構築を目指すとともに、産総研内においても材料フォーラム内に新たな分科会「食品ナノテクノロジー」を設立し、食品とナノ材料との関係を検討する準備を進めています。安全性試験は外部委託によって実施しましたので、その旨注1)に明記しました。また、その信頼性に関しても試験手法に関する情報を記載しました。議論3 第1種、第2種基礎研究に対する認識とシナリオ構成の関係質問(一條 久夫)有機ナノチューブ研究の初期に行われた設計・合成・構造機能解析は第1種基礎研究で、その知見をもとに工夫を加えた「大量合成」は第2種基礎研究と理解していましたが、第1種基礎研究と位置づけられているのでしょうか。また、2.において(1)と(2)の間で作業仮説の立案と実験が繰り返されたとありますが、これは試行錯誤的に最適な方法を見つけるという意味でしょうか。さらに、用途開発は第2種基礎研究と記され、図4には主に企業が担う形で描かれています。発光性有機ナノチューブの開発のみが用途開発として記述されていますが、他は具体的に何も記されていません。他の研究は無いのでしょうか。回答(浅川 真澄)(1)第1種基礎研究と位置づけについて。「大量合成」は、(1)分子設計・合成技術、(2)自己集合化技術、と言う第1種基礎研究の統合によって達成されたとの考えに基づいて判断するならば、第2種基礎研究であると考えて良いかと思います。(2)作業仮説の立案と実験の繰り返しと試行錯誤的に最適な方法を見つけることについて。その通りです。誤解を恐れずに言わせていただきますと、研究のコンセプトと目標地点が定まっている場合には、適当な出発地点からスタートしても、作業仮説の立案、それを検証するための実験、結果の評価、課題の抽出、という一般に言われるPDCAサイクルにより、目的地点へと近づいていきます。(1)と(2)の間で得られる出発地点近傍の最適解は、(3)、(4)へと進んで行くに従って、さらに大きなサイクルとなり、(5)を満足するカスタマーの視点に立った最適解に近づけると考えております。出発地点をどこに決めるのかは、それまでに実施した研究の背景や研究者の経験と勘に依るところが大きいと思います。(3)他の研究について。図4において、用途開発は産総研と企業との連携によって達成できる部分が大きくなってくるため、黄色(産総研)と緑色(企業)が混ざり合っているように表現したつもりです。他の研究としては、薬剤投入に伴う有機ナノチューブの分解法の開発があります。具体例を記載しました。
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