Vol.1 No.3 2008
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研究論文:実用化へ向けた有機ナノチューブの大量合成方法開発(浅川ほか)−187 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)すい水中生物への影響を評価する生態毒性試験、変異原性を評価するための復帰突然変異試験の4項目に対する安全性試験を実施した注1)。 環境中の微生物による分解度試験では、有機ナノチューブが環境中に放出されても、環境中の微生物によって28日間でほぼ完全に分解されるため、人や動植物への影響はほとんどないことが判った。ラットを用いた経口急性毒性試験では、5,000 mg/ kgの有機ナノチューブをラットへ経口投与しても2週間の観察で死亡例が見られなかったことから、その急性毒性は極めて低毒性であり、その最小致死量(LDLo)は雌雄ともに5,000 mg/ kg以上であることが判った。藻類、オオミジンコ、ヒメダカを用いた生態毒性試験では、100 mg/ Lの有機ナノチューブ水溶液を調整し、それぞれ72時間生長阻害、48時間急性遊泳阻害、96時間急性毒性に関して試験したところ、生長阻害、急性遊泳阻害、急性毒性は観察されなかった。また、復帰突然変異試験では、変異原性陰性であることが確認された。5 考察:研究結果とシナリオの比較 有機ナノチューブ合成用両親媒性分子の分子設計・合成技術の開発という第1種基礎研究を推進することにより、天然由来の再生可能資源を原料とした安価な両親媒性分子を設計・合成することに成功した。さらには自己集合化技術の開発という第1種基礎研究を分子設計・合成技術と統合することにより、有機ナノチューブの大量合成法の開発(第2種基礎研究)を達成した。この結果により、有機ナノチューブの実用化へ向けた研究開発を可能とした。 用途開発に関する課題解決へ向けては、企業へのサンプル提供を実施し、企業とのコミュニケーションから顕在化した課題を整理し、解決へ向けた研究開発を展開している途上である。用途開発分野ごとの課題解決には、企業との連携はもちろんのこと関係分野との連携も必要であり、適切な研究実施体制作りが重要である。 安全性評価に関しては、環境中の微生物による分解度試験、ラットを用いた経口急性毒性試験、水中生物への影響を評価する生態毒性試験、変異原性を評価するための復帰突然変異試験の4項目に対する安全性試験を実施し、それぞれの項目で安全性が確認された。この結果は、用途開発において重要な要因である企業へのサンプル提供において多くの担当者から評価されており、安全性への早い段階からの配慮は、産業界からの参入障壁低減に役立つことが証明された。また、分子設計段階で考えていた天然由来の原料から合成される両親媒性分子の安全性に関しては、今回の事例においては立証された。 技術移転策に関しては、シナリオ作成時点においても時間軸の設定が困難であることを感じていたが、実際の状況においても一般的にいわれている人、物、金の要因が絡み合っており、しかも用途分野に依存するより複雑な時間的要因もあることから、最適解を出すことは難しい。今回の研究課題においては、サンプル提供を広く実施することで有機ナノチューブの可能性を多方面に求めた結果、ある分野では実用化が早く、ある分野では時間がかかることが明らかになった。実用化の早い分野に合わせた研究開発要素を抽出し、需要と供給の最適化を図ることが今後の迅速な技術移転を進める上での優先課題であることが判った。また、迅速な技術移転のためにはサンプル提供に基づく共同研究体制で望むことが良いと判断し、公募型共同研究という仕組みを作り検討を開始した。6 将来への課題 有機ナノチューブというまだ世の中で使われたことのない新しい材料を実用化するための研究は、その想定される応用分野の広さから、研究所内での閉じた研究開発手法ではなく、サンプル提供により実用化へ向けた用途開発を外へ求める開いた研究開発手法を選択した。この研究手法を可能としたのは、有機ナノチューブの大量合成法が達成できたことによる。同様に大量合成法の達成は、実用化へ向けた研究開発の初期段階での安全性評価を可能とし、企業の有機ナノチューブに対する受容性を高めることに役立った。 今後はサンプルを受け入れた企業からの情報を基に、用途開発に関する要素技術の抽出とその解決策を検討し、企業と連携することにより製品化研究へ展開する。また、企業からの情報に基づき市場形成の早い分野と時間のかかる分野を見極め、早い分野では需要に応じた供給体制を整え、遅い分野では加速するために大学との連携を含めた研究開発を実施する。特に新産業の創出においては、新たな安全性評価手法の開発や有機ナノチューブの工業標準化も視野に入れて、関連分野との連携による研究開発、必要な情報収集・蓄積を目指す。さらに、ミニマルマニュファクチャシクロデキストリン水OH6-8OHOHOOOHOHOO〔〕図8 シクロデキストリン添加による有機ナノチューブの分解(18)−
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