Vol.1 No.3 2008
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研究論文:実用化へ向けた有機ナノチューブの大量合成方法開発(浅川ほか)−186 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)4.2 有機ナノチューブの自己集合化技術熱安定性があり、天然由来の安価な原料から合成できる両親媒性分子3を得たことから、有機ナノチューブの効率的な合成法に関して検討した。従来の合成法では、両親媒性分子を水中で加熱溶解し、その水溶液から自己集合化によって有機ナノチューブが形成し、析出するのを待ってから、回収・乾燥することによって有機ナノチューブを得ていた。この合成法の問題点は、両親媒性分子の水への溶解度があまり高くないこと、水溶液から自己集合化によって有機ナノチューブを形成するまでに長時間を要すること、水溶液から回収した有機ナノチューブを乾燥するのが困難であることの3点があった。この問題点を解決するために種々の溶媒を用いて、両親媒性分子の自己集合化を検討した。その結果、アルコール系溶媒を使用することで、問題が全て解決することが判った。すなわち、アルコール系溶媒は、両親媒性分子を良く溶かし、自己集合化が迅速に進行し、回収した有機ナノチューブの乾燥も簡単であった[15]。この新たな有機ナノチューブ合成方法により、これまでは実験室で1 g合成するのがやっとであった有機ナノチューブを簡単に100 g以上合成できるようになった(図6)。4.3 有機ナノチューブの用途開発 有機ナノチューブの大量合成法が開発できた時点から、プレスリリースや展示会での発表を通じて想定される用途に関連する企業への宣伝を実施した。それと並行して、希望する企業へのサンプル提供に対応するための準備を整え、2007年から各分野の企業へサンプル提供を実施している。サンプル提供の際には、研究所と企業との間でサンプル提供契約(MTA)の締結が必要であるが、今回は特に契約書中の使用目的の項に用途開発分野の具体的な記載を求めた。これは将来的に知的財産権の重複が危惧される分野を事前に把握し、可能な限り対応するためである。 サンプル提供の結果、分野ごとに用途開発における課題が顕在化してきており、分野に依存して実用化までにかかる時間が異なることが明らかになった。特に実用化の早い分野では、需要と供給の最適化を図ることが迅速な技術移転を進める上で重要である。 一方、我々の研究チームでは、有機ナノチューブの用途開発に関しては、水への分散性、ゲスト包接能等の既知情報に加えて、ナノバイオ系分野での研究開発ツールとして有効であると考えられる発光性有機ナノチューブの開発(a)並びに温和な条件下での分解法の開発(b)を実施した。 (a)発光性有機ナノチューブの開発:有機ナノチューブの大量合成法の工程で、両親媒性分子が有機溶液中で自己集合する際に、蛍光分子を加えておくと、蛍光分子が取り込まれて、発光する有機ナノチューブが得られる技術である(図7)。今後、発光性有機ナノチューブを投与した細胞などの生体内での観察を実施することにより、有機ナノチューブの生体内での安定性や挙動など、貴重な情報が得られることが期待できるため、ナノバイオ分野での用途開発研究ツールとして役立つと考えられる。 (b)有機ナノチューブ分解法の開発:有機ナノチューブは水中でゲル-液晶相転移温度(約70 ℃)以上に加熱することで球状構造へと変化する。さらに温和かつ安全に分解する方法を検討した結果、有機ナノチューブにシクロデキストリン水溶液を添加すると板状構造へと変化することを見出した。有機ナノチューブを構成する両親媒性分子がシクロデキストリンに包接されることによってチューブ構造が分解されることが判った(図8)。機能性材料として期待される有機ナノチューブは、温和な条件で容易に分解できることにより、その適用範囲が広がると期待される。4.4 有機ナノチューブの安全性評価 有機ナノチューブの安全性評価に関しては、まず所内で安全性評価項目を決めるための会議を、産学官連携推進部門、知的財産部門、TLO、技術情報部門等の技術移転関連部署と開催することにより、議論を深め決定した。 その結果、量産化を目指すためには、1トン以上の合成の際に必要とされる化審法「新規化学物質等に係る試験の方法について」に対応するため環境中の微生物による分解度試験、食品や医薬系への応用を指向してラットを用いた経口急性毒性試験、環境中に暴露した際に影響を受けや図6 有機ナノチューブの白色固体粉末(重量約140 g)(右側)とその走査電子顕微鏡像(平均外径=300 nm、平均内径=90 nm)(左側)(17)−蛍光分子OHHOHOOOHHNO両親媒性分子有機溶媒 発光性有機ナノチューブ図7 発光性有機ナノチューブの製造工程
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