Vol.1 No.3 2008
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研究論文:実用化へ向けた有機ナノチューブの大量合成方法開発(浅川ほか)−185 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)3 実現すべき機能と構成的方法3.1 主要要素技術有機ナノチューブの実用化を目指すための主要要素技術として、我々が選択したことは、(1)天然由来の再生可能資源を原料とする有機ナノチューブ合成用両親媒性分子の分子設計・合成に関する技術、(2)両親媒性分子を自己集合化することによる効率的な有機ナノチューブ合成技術、(3)用途開発のために必要な要素技術の抽出とその開発、(4)有機ナノチューブを普及するための安全性評価項目の選択と実施、(5)製品化研究開発のための適切な技術移転策の選択と適切な研究経営の5つである。3.2 統合システム化と実現される機能 それぞれの主要要素技術は、基本的には番号の順にリニアに開発され、(1)分子設計・合成技術、(2)自己集合化技術、(3)用途開発技術、(4)安全性評価技術、(5)製品化技術へと実用化へ向けて技術が進展していくことが理想的であるが、実際の研究現場においては、そのように研究が進捗することはほとんどない。実際の研究現場での主要要素技術の進展は、まず(1)と(2)の間で作業仮説の立案と実験による検証が繰り返され、その中で新たな知識が生み出され(第1種基礎研究)、一応の回答が得られた時点で(3)や(4)へと展開する。有機ナノチューブの実用化へ向けた研究開発においては、(3)の要素技術開発以降は、設計した目標達成をより強く意識する研究段階(第2種基礎研究)へと展開するため、他律的な要因が増えてくる。具体的には用途に応じた既存技術との融合、既存競合材料との比較、経営判断等の要因から、フィードバックがかけられスパイラル的に技術が磨き上げられることとなる(図4)。(4)に関しては、初期段階では既存評価技術を用いた既存情報と比較可能な評価手法を選択するべきであり、その点において新たな技術開発の余地は少ない。(3)の用途技術開発が進捗し、新たな分野での需要が見込める段階に進んだ場合には、それと並行して(4)の安全性評価技術は、関係分野と連携を強めながら新たな評価手法の開発が必要となる。4 研究結果4.1 有機ナノチューブ合成用両親媒性分子の分子設計・合成技術 我々は、数年前にカシューナッツの殻から取れるカルダノールとブドウ糖から合成されるカルダノール-ブドウ糖両親媒性分子1が水中で自己集合することにより、有機ナノチューブを選択的に形成することを見出した[13]。この両親媒性分子は、水中で選択的にチューブ構造を形成することが特徴であるが、熱安定性は低く水中でのゲル-液晶相転移温度は40 ℃であった。すなわち水中で40 ℃に加温されることで、容易にチューブ構造からリポソーム様の球状構造へと構造を変えてしまうため、実用化への展開は困難であると判断した。そこで、両親媒性分子1のブドウ糖とアルキレン鎖を連結するベンゼン環をアミド基に置換することによって、自己集合するときにアミド基の部分で水素結合できるように工夫した両親媒性分子2を設計し合成した。両親媒性分子2による有機ナノチューブは、予想通り分子1よりも熱に対して安定であり、その水中でのゲル-液晶相転移温度は約70 ℃であった[14]。両親媒性分子2に変更することで熱安定性に関する問題は解決したが、当初計画した天然由来の安価に入手可能な原料を使用するという目標とは異なり、分子2の原料の脂肪酸であるシス-11-オクタデセン酸(シス-バクセン酸)は、1グラム3万円以上の高価な原料であった。このため、さらに分子構造の最適化を検討した。その結果、炭素-炭素2重結合の位置を11位から9位に変更したシス-9-オクタデセン酸(別名オレイン酸)がオリーブ油に豊富に含まれており安価であること、この脂肪酸を使用した両親媒性分子3を使用して有機ナノチューブが合成可能であること、ゲル-液晶相転移温度が約70 ℃であり熱安定性を満足することが判った(図5)。企業産総研(5)製品化 技術(3)用途開発 技術(4)安全性 評価技術(2)自己集合 化技術(1)分子設計 合成技術図4 有機ナノチューブ主要要素技術の統合に関する概念図(16)−3OHHOHOOOHHNO11-Cis9-CisOHHOHOOOHHNOOHHOHOOOHHNOO12熱安定化低コスト化図5 両親媒性分子の実用化へ向けた分子設計

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