Vol.1 No.3 2008
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研究論文:実用化へ向けた有機ナノチューブの大量合成方法開発(浅川ほか)−184 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)ブの材料としての可能性を検証することが可能となり、実用化への道を拓くことができる。本研究の目的は、有機ナノチューブを実用化することによって新産業を創出することである。そのためには、有機ナノチューブ大量合成方法の開発が必須である。さらに、安価な有機ナノチューブ合成用分子の開発、用途開発、安全性の実証等の課題を解決する必要がある。2 目標と達成するためのシナリオ 有機ナノチューブを実用化するためには、各分野の企業で試してもらい製品開発候補材料として受け入れてもらうことが必要である。企業に試してもらうためには、企業へのサンプル提供を可能とする大量合成法の開発、各分野での用途に合わせた機能の提供に加えて、価格競争力、安全性等の種々の条件を満たすことが必要である。これらの要因を満たすためには、分子設計・合成技術を駆使することにより、最適な分子構造を設計するとともに、合成経路を簡略化し、合成コストの削減による安価な有機ナノチューブ合成用分子の実現が求められる。また、求められる安全性評価を実施し、情報共有することにより産業界からの参入障壁を低くすることも重要である(図3)。 上記目標を達成するためのシナリオとしては、まず第1に経済性、安全性、量産性を考慮した有機ナノチューブ合成用両親媒性分子の分子設計並びに合成技術の開発を実施することとした。ここで分子設計の指針とした考え方は、原料として天然由来の再生可能資源であり、かつ豊富に存在する資源を極力使用するということであった。豊富に存在する資源であるかどうかの判断は、試薬会社の供給価格が安いほど豊富であるとした。また、作業仮説として天然由来の原料から合成される両親媒性分子は、安全性が高いとした。 第2に、自己集合化法の改良により両親媒性分子から有機ナノチューブの合成方法を検討し、大量合成を可能とするプロセスを開発することであった。有機ナノチューブの合成には、両親媒性分子を溶媒に溶解する段階、両親媒性分子が自己集合し有機ナノチューブを形成する段階、溶媒と有機ナノチューブを分離する段階、有機ナノチューブを乾燥する段階の4段階を検討することが必要であった。合成方法を効率化し、大量合成を可能とするためには各段階の全てにおいて改善することが必要であった。大量合成法の開発は、経済性と量産性の両立を可能とする。また、これまで100 mg以下と非常に少量でしか検討することができなかった各種用途開発へ道を拓く[11]とともに、各種安全性評価も並行して検討することを可能とする非常に重要な課題である。 第3に、有機ナノチューブがそれぞれの分野で実用化されるためには、用途開発とともに既存材料との比較により優位性が認められることが重要であるとした。用途開発の検討には、各分野の企業において実際に必要とされる用途に使用できるかどうかを試してもらうことが重要であり、実際に既存材料を開発している企業に有機ナノチューブを提供し、共同研究体制を確立しつつ有機ナノチューブの有効性を実証することが必要であると考えた。特に各分野の企業において試してもらうためには、積極的なプロモーションが必要であり、学会や展示会での発表を通じて企業へ有機ナノチューブに関する技術を伝え関心を持ってもらおうとした。 第4に、有機ナノチューブは新規材料であるため、用途開発によって有用性が認められたとしても、安全性が認められなくては社会的な受容は実現できない[12]。そこで、第1のシナリオで仮説を立てた天然由来の原料から合成された両親媒性分子並びに有機ナノチューブの安全性の評価を実施した。また、同時に安全性の情報は、関連企業と共有化することで企業からの当該技術導入への参入障壁低減を図った。 シナリオの第1段階と第2段階を達成するためには、並行して相補的に作業することが必要であった。有機ナノチューブに関する研究は、分子を構成単位として、その分子間相互作用に基づく集合体の機能を研究する超分子化学によって理解されるため、分子設計・合成技術の開発と自己集合化法の開発は、分子構造とその分子構造に基づく分子自己集合体の構造を詳細に検討することにより達成されると考えた。 第3のシナリオは、まず第1、第2のシナリオが達成された後に検討するとした。第3のシナリオ達成には、第1、第2のシナリオと比較して他律的な要因を解決しなくてはならないため、迅速な達成には組織的で戦略的な取り組みが必要であった。 第4のシナリオは、有機ナノチューブを実用化するに当たっては、非常に重要な項目であるとともに、応用分野によってその安全性評価項目は異なってくることから、初期段階においては共通的な評価項目を抽出し、顧客が有機ナノチューブを利用する動機付けとなるように検討するとした。(15)−有機ナノチューブ 実用化 用途開発安全性評価価格量安全設計合成図3 シナリオ模式図
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